固有値問題
固有値と固有ベクトル
いよいよこの章から体上の次正方行列の乗を計算するのに役に立つ理論を学ぶ。 例えばが次正則行列を使って次のように変形されたとする。
一般に次正方行列を次正則行列を使ってと変形することを相似変換といい、このように相似変換して対角行列にすることを対角化という。 このとき、とすると
なので、
を満たすであってが線形独立であるものを見つけてくれば対角化できることになる。 この時のをの固有値、をの固有ベクトルといい関係式式 (0.1) を固有値問題という。
それではどうやって固有値・固有ベクトルを見つけてくればよいのだろうか。 式 (0.1) を変形するとは斉次連立一次方程式
の解であり、でないと線形独立にならない。 よって、次正方行列は逆行列を持たないので、
が成立する。 これをについての方程式とみての固有方程式という。 なお、左辺はについての係数の次の多項式になっていて、の固有多項式という。 固有方程式の解つまり固有多項式の零点が固有値であり、に対しての線形部分空間
を定め、固有値に対してをの固有値に対する固有空間という。 このときに注意する。
例 1
第1章で紹介した液体の入れ替えの問題をもとに片方の容器からの割合をもう片方の容器からの割合の液体を入れ替える問題を考えると、係数行列は
となりこれを対角化することを考える。 の固有多項式は
よって固有値はである。 ここでの時この固有値はが重になるが、なのでと最初から対角化されている。 の場合はつの異なる固有値を持つのでは対角化可能である。 この時、固有値に対しては
より固有ベクトルとしてが取れて、 固有値に対しては
より固有ベクトルとしてが取れる。 よっては
と対角化でき、
と計算できる。
固有空間の線形独立性
補題 1 (固有空間の線形独立性)
を上の線形空間上の線形変換として、を異なる固有値とする。 このとき固有空間についてが成り立つ。証明
とすると、
よって、よりを得る。
定理 2 (対角化の十分条件)
を上の次元正方行列として、を相異なる固有値とする。 ここで固有空間が、つまりを満たすとき、は対角化可能である。
特に上の次元正方行列が相異なる個の固有値を持つならば、は対角化可能である。
三角化可能性
対角化を緩和して、次正方行列を次正則行列を使って
と変形することを三角化という。 本節の見出しは三角化「可能性」となっているが、後で見るように三角化なら(固有方程式が解ければ)常にできることが重要である。
まず、三角化できるならば固有多項式が因数分解されることを紹介する。
証明
を書き直すと
この行列式を取ると、
である。
逆に固有多項式が因数分解されるならば三角化できる。
証明
に関する数学的帰納法で証明する。 の時ははスカラーなので三角化されている。 次までで三角化されたとする。 は固有方程式の解で固有値なので、
となるベクトルが存在する。 ここで基底の延長を行い、の基底を構成して正則行列とおくと、
となる。 前の命題の証明同様に行列式を考えると、
となるので、数学的帰納法の仮定より
と三角化される。 ここで、
とおくと、は次正則行列で
となる。 以上よりは三角化される。
代数的閉体
命題 1 でわかるように、行列が三角化されるためには固有多項式が因数分解されることが必要であるが、 因数分解できることを保証するの条件が代数的閉体であることである。
定義 1 (代数的閉体)
体上の次以上の任意の多項式に対して零点、つまりとなるが存在する時、 は代数的閉体であるという。命題 2 (因数分解)
を代数的閉体として、をその上の次の多項式であっての係数がであるものとする。 このとき、を使って
と因数分解される。
例 3
代数的閉体の重要な例は複素数体である。 これは代数学の基本定理と呼ばれる定理からわかるが、その証明にはあるいは上の微分積分学の知識が必要である。 なお、実数体や有理数体などは代数的閉体ではない。例 4
複素数の中でも有理数上の次以上の多項式の零点となる数は代数的数と呼ばれる。 代数的数全体の集合
は複素数体の部分体であり、代数的閉体になっている。
固有値の重複度
を体上の次正方行列として、をその固有値とする。 このとき、の固有多項式はで割り切れるが、がで割り切れるような最大のを固有値の代数的重複度という。 固有多項式は次なので代数的重複度はの値を取る。 一方で固有空間の次元を幾何学的重複度という。
命題 1
を上の次正方行列として、をその固有値とする。 このときの幾何学的重複度は代数的重複度以下である。 つまりとすると、の固有多項式はで割り切れる。証明
線形独立な個のベクトルがとれ、拡張をしての基底を構成する。 このとき、を使って、
とでき、
より、はで割り切れる。