数
自然数
自然数とはものの個数や順番を表す数のことでといった数である。 ここでやそれになどは自然数ではない。 なお、を自然数とするかどうかは状況によってまちまちであるがこのテキストではも自然数として考える。 自然数全体の集合をで表す。 つまり、
である。
自然数は一つ大きくしたものも自然数つまりならばが成り立つ。 また、何回大きくしてももとの自然数には戻らず、ずっと増えていくものである。 このことから自然数の集合は無限集合の典型例であり、また数列の添字として利用される。 自然数(の集合)において重要なのはこのことであり、を含むかどうかは些末な問題である。 このテキストでは抽象的な数列の添字として利用する場合のみにを用いて、添字を明示したい場合はやなどと書く。
数学的帰納法とは自然数に関する命題の証明法である。 つまり、命題「任意の自然数に対してが成り立つ」を証明するためには以下の二つの命題を示せばよい。
- が成り立つ。
- 任意の自然数に対してが成り立つ。
つまり最初の自然数で示して、その後一つずつ増やして証明していく論法である。 直接任意の自然数に対して証明できない場合でも数学的帰納法で証明できることが多い。 最初の自然数(上の場合は)を取りかえることで証明できる自然数の範囲()を調節できるほか、 二つ目の条件の中の“”という部分をより示しやすく「任意の自然数に対してが成り立つ」に取りかえても同じ結論が得られる(累積帰納法)など様々な数学的帰納法の変種がある。
自然数には加法(足し算)と乗法(掛け算)が定義できる。 自然数, に対して、を回一つ大きくすることが加法であり、その結果をとの和と言いと表す。 また自然数, に対して、に回を足すことが乗法であり、その結果をとの積と言いと表す。 積はとも表されるほか、が文字の場合はやは省略されと表される。
加法と乗法の重要な性質として、以下がある。
命題 1 (自然数の演算)
- (加法の結合法則)任意の自然数に対してが成り立つ。
- (加法の交換法則)任意の自然数に対してが成り立つ。
- (乗法の結合法則)任意の自然数に対してが成り立つ。
- (乗法の交換法則)任意の自然数に対してが成り立つ。
- (分配法則)任意の自然数に対してとが成り立つ。
- (零元)は零元である。 つまり任意の自然数に対してとが成り立つ。
- (単位元)は単位元である。 つまり任意の自然数に対してが成り立つ。
二つの自然数, の間には大小関係が定義できる。 つまり、を満たす自然数が存在する時と書き、そうでない時と書く。 また、を満たす自然数が存在する時と書き、そうでない時と書く。
この大小関係の重要な性質として、以下がある。
命題 2 (自然数の大小関係)
- (全順序)任意の自然数に対してまたはのどちらかが成立し、両方が成立する場合はに他ならない。
- (推移性)任意の自然数に対してかつならばが成り立つ。
- (加法との両立)任意の自然数に対してならばとならばが成り立つ。
- (乗法との両立)任意の自然数に対してならば。
また、基礎的な大小関係
が成立する。
整数
自然数には加法と乗法が定義されるが減法(引き算)が定義されるとは言えない。 これはからを引く場合に答えが自然数の範囲から出てしまうためである。
そのような場合のために負の符号と自然数の負数を導入する。 また、対応して正の符号と自然数の正数を導入する。 正の符号を導入したがこれはしばしば省略される。 とをまとめてと表す。 整数はこれらの数をまとめてさらにをとして同一視したものである。 整数のうちの部分は自然数と同一視する。 整数全体の集合をで表す。 つまり、
である。
整数の演算を定義するために、まず自然数の減法を答えが整数の範囲で定義する。 つまり自然数に対して、の場合はを満たす自然数が存在するのでとし、の場合はを満たす自然数が存在するのでとする。 かの片方は成立するのと、両方が成立する場合はでなのでで整数の定義でを同一視しているのでこの減法は答えが整数の範囲で定義できる。
ここから整数の加法と乗法を次で定義できる。
整数の反数はが正の符号を持つ場合は負の符号に、負の符号を持つ場合は正の符号に変えたものである。 整数の減法は二つの整数, に対して
として定義し、その結果をとの差と言う。
以上の整数の加法、乗法、減法は自然数に制限すると(減法は答えが整数の範囲で)自然数の加法、乗法、減法と一致することに注意する。 また、以下の性質が成り立つ。
命題 1 (整数の演算)
- (加法の結合法則)任意の整数に対してが成り立つ。
- (加法の交換法則)任意の整数に対してが成り立つ。
- (乗法の結合法則)任意の整数に対してが成り立つ。
- (乗法の交換法則)任意の整数に対してが成り立つ。
- (分配法則)任意の整数に対してとが成り立つ。
- (零元)は零元である。 つまり任意の整数に対してとが成り立つ。
- (反数)任意の整数に対してが成り立つような整数がただ一つ存在する。
- (単位元)は単位元である。 つまり任意の整数に対してが成り立つ。
正の符号を持つ整数を正の整数、負の符号を持つ整数を負の整数と言う。 ただし、は例外でどちらでもない整数として扱う。
二つの整数, の間の大小関係, , , を差の符号によって定義する。 以下の性質が成り立つ。
命題 2 (整数の大小関係)
- (全順序)任意の整数に対してまたはのどちらかが成立し、両方が成立する場合はに他ならない。
- (推移性)任意の整数に対してかつならばが成り立つ。
- (加法との両立)任意の整数に対してならばが成り立つ。
- (乗法との両立)任意の整数に対してかつならばが成り立つ。
基礎的な大小関係として
が成立する。
有理数
減法を定義するために自然数を整数に拡張したように、除法(割り算)を定義するために整数を拡張する。 有理数は二つの整数, ()を使って分数やの形で表される数のことであり、 二つの有理数, がを満たすとき同一視する(通分すると同じ数であるため)。 ここで分母がでない場合しか考えないのはの場合を入れると後述の四則演算の性質をすべて成り立たせることができなくなるためである。 また、であるため、として正の整数のみ考えれば十分である。 有理数のうちは整数と同一視する。 有理数全体の集合をで表す。
有理数に対しての時、も有理数でありの逆数といいと表す。 有理数のうちと同一視されるものは ()であることに注意すると、以外の有理数には逆数が存在する。
有理数の加法、減法、乗法、除法は以下で定義する。
ただし、除法はの場合に限って定義される。 除法の記号としてもの代わりにや分数の記号を使ったりする。 定義からすぐわかる通り、除法は逆数をかけることに相当する。 これら4つの演算をまとめて四則演算という。
以上の有理数の加法、乗法、減法は整数に制限すると整数の加法、乗法、減法と一致することに注意する。 また、以下の性質が成り立つ。
命題 1 (有理数の演算)
- (加法の結合法則)任意の有理数に対してが成り立つ。
- (加法の交換法則)任意の有理数に対してが成り立つ。
- (乗法の結合法則)任意の有理数に対してが成り立つ。
- (乗法の交換法則)任意の有理数に対してが成り立つ。
- (分配法則)任意の有理数に対してとが成り立つ。
- (零元)は零元である。 つまり任意の有理数に対してとが成り立つ。
- (反数)任意の有理数に対してが成り立つような有理数がただ一つ存在する。
- (単位元)は単位元である。 つまり任意の有理数に対してが成り立つ。
- (逆数)任意の有理数に対してが成り立つような有理数がただ一つ存在する。
有理数(は正の整数)の符号はの符号と同じになるように定義する。 この符号は, の取り方によらないことがわかる。 二つの有理数, の間の大小関係, , , を差の符号によって定義する。 以下の性質が成り立つ。
命題 2 (有理数の大小関係)
- (全順序)任意の有理数に対してまたはのどちらかが成立し、両方が成立する場合はに他ならない。
- (推移性)任意の有理数に対してかつならばが成り立つ。
- (加法との両立)任意の有理数に対してならばが成り立つ。
- (乗法との両立)任意の有理数に対してかつならばが成り立つ。
実数
これまでの流れで四則演算が定義できるように数の範囲を拡張して有理数を得たが、 さらに極限と呼ばれる操作をしたときにその結果が有理数から出ても大丈夫なようにさらに数の範囲を拡張する。
実数はそのような拡張の一つで、ここではデデキント切断と呼ばれる方法で定義する。 つまり、次の条件を満たす有理数の集合を有理数の切断という。
- 任意のとに対して、が成り立つ。
- は空集合でない。
- は全体集合でない。
実数はこのような有理数の切断であり、一つの有理数を取り除いたら有理数の切断ではなくなるものである。 有理数の切断の本質的な条件は最初のものであり、これにより有理数を数直線上で左()と右()に分けて(切断して)いる。 実数は切断する点に相当し切断する点が左には入れないとしたものである。
例えばを有理数とすると、以下の有理数全体は有理数の切断である。 また、未満の有理数全体も有理数の切断である。 これらの有理数の切断はが元としてあるかないかの違いであり、後者はこれ以上有理数を取り除けないので実数となり、有理数と同一視する。
例 1
実数であるが有理数ではない(有理数とはみなせない)数としての平方根がある。 この有理数の切断としての表現はということになるがは定義されていないので、今までの記号で書くならばとなり確かにこれは有理数でない有理数の切断(実数)になっている。実数のうち有理数でないものを無理数という。 実数全体の集合をで表す。
実数, の大小関係をが成り立つとき、そうでない時として定義する。 また、が成り立つとき、そうでない時と定義する。 有理数の切断としての実数は切断する点が取り除かれていることに注意する。 以下の性質が成り立つ。
命題 2 (実数の大小関係)
- (全順序)任意の実数に対してまたはが成立し、両方が成立する場合はに他ならない。
- (推移性)任意の実数に対してかつならばが成り立つ。
実数は有理数の隙間を埋めて得られると考えられるが、有理数は2つの実数の間にぎっしり詰まっていて次が成立する。
命題 3 (有理数の稠密性)
実数, がを満たす時、を満たす有理数が存在する。証明
有理数の切断による。 実数の有理数の切断としての表現を、実数の有理数の切断としての表現をとする。 ここで、をが有理数のとき、そうでないときとして定義するとも有理数の切断で、仮定よりとなる有理数が存在する。 このに対してを示せばよい。 有理数の有理数の切断としての表現をとすると、であった。 まずだがなので、ではなく、である。 次にを示すために有理数を取るとより有理数の切断の定義からが成り立ちである。 ここから、とするととなるが、これはが無理数かつである場合にしか成り立たないので、が成り立つ。 以上により証明が完成した。をを満たす実数として、以下の集合を定義し、まとめて区間という。
このうちを閉区間といい、 を開区間という。 また、を有界区間という。 特に区間は有界閉区間と呼ばれる。
命題 4 (実数と有理数の切断の対応)
を実数とすると、の有理数の切断としての表現は
である。
証明
が有理数の切断であることを示す。 実際、有理数範囲での補集合はであるので、, ならばである。 また、として有理数の稠密性(命題 3)を用いればもも空集合でないことがわかる。 さらにから一つの有理数を取り除くことを考えるとよりやはり有理数の稠密性からなるが存在するので、は有理数の切断ではない。 以上によりに対応する実数が存在し、その実数をとする。
次につまりであることを示す。 そのためには有理数に対してとが同値を示せばよく、とが同値を示せばよい。 これはの定義に他ならないので、証明が完成した。
実数にも有理数同様、四則演算つまり加法、減法、乗法、除法と反数、逆数が定義できるがその説明をするには上限・下限の概念が必要になる。 ここではそれらが定義できたとしてその性質を紹介する。
命題 5 (実数の演算と大小関係)
- (加法の結合法則)任意の実数に対してが成り立つ。
- (加法の交換法則)任意の実数に対してが成り立つ。
- (乗法の結合法則)任意の実数に対してが成り立つ。
- (乗法の交換法則)任意の実数に対してが成り立つ。
- (分配法則)任意の実数に対してとが成り立つ。
- (零元)は零元である。 つまり任意の実数に対してとが成り立つ。
- (反数)任意の実数に対してが成り立つような実数がただ一つ存在する。
- (単位元)は単位元である。つまり任意の実数に対してが成り立つ。
- (逆数)任意の実数に対してが成り立つような実数がただ一つ存在する。
- (大小関係の加法との両立)任意の実数に対してならばが成り立つ。
- (大小関係の乗法との両立)任意の実数に対してかつならばが成り立つ。
拡大実数
実数に正の無限大と負の無限大を入れた数を拡大実数という。 有理数の切断で説明するならば、負の無限大は空集合が正の無限大は全体集合がそれぞれ対応する。 拡大実数全体の集合をで表す。 つまり、
である。 拡大実数が与えられた時に、その数が正または負の無限大でないとき、つまりが実数のときはは有限であると表現する。
拡大実数を導入する利点は、正と負の無限大を数として考えることで後で登場する上限下限や極限を一貫した数体系で記述できるほか、大小関係や区間が自然に拡張できる。 一方で四則演算に一部欠落があるのでそこには注意する。
つまり、拡大実数の大小関係を有理数の切断の包含関係で考えると、任意の拡大実数に対して
が成り立ち、以下の性質が成り立つ。
命題 1 (拡大実数の大小関係)
- (全順序)任意の拡大実数に対してまたはのどちらかが成立し、両方が成立する場合はに他ならない。
- (推移性)任意の拡大実数に対してかつならばが成り立つ。
をを満たす拡大実数として、区間は次の4種類に集約される。
特にでである。
拡大実数の四則演算は実数のものに以下を付け加える。 つまりを実数として、
とする。 拡大実数の反数は, とすればよい。 を正の実数または正の無限大として、
とする。 拡大実数の逆数はとするがの逆数は定義されないことに注意する。
以上の四則演算は定義される範囲においては直感的であるが、
に相当する計算の結果は定義されず、不定形と呼ばれる。
複素数
どの実数でもない仮想的な数を導入し、実数を使ってと表現される数を複素数という。 このときの実数を複素数の実部といいで表し、実数を虚部といいと表し、を虚数単位という。 二つの複素数とが等しいとは実部と虚部の両方が等しいということでありかつである。 虚部がない(である)場合の複素数は実数と同一視される。 複素数全体の集合をで表す。
複素数の加算を次で定める。
ここから複素数の反数はであることが従い、減法は次になる。
複素数の乗法を次で定める。
特にであり、その意味で虚数単位はしばしばと表現される。 複素数の逆数はであり、除法は次になる。
これらの複素数の四則演算は以下の性質を満たす。
命題 1 (複素数の演算)
- (加法の結合法則)任意の複素数に対してが成り立つ。
- (加法の交換法則)任意の複素数に対してが成り立つ。
- (乗法の結合法則)任意の複素数に対してが成り立つ。
- (乗法の交換法則)任意の複素数に対してが成り立つ。
- (分配法則)任意の複素数に対してとが成り立つ。
- (零元)は零元である。 つまり任意の複素数に対してとが成り立つ。
- (反数)任意の複素数に対してが成り立つような複素数がただ一つ存在する。
- (単位元)は単位元である。 つまり任意の複素数に対してが成り立つ。
- (逆数)任意の複素数に対してが成り立つような複素数がただ一つ存在する。
なお、実数のときにはあった数の大小関係は複素数においてはない。 本テキストで単に数と言えば複素数で成り立つ場合が多い。
不等式
不等式の基礎として自乗に関する次の性質がある。
命題 1 (自乗の単調性)
任意のを満たす拡大実数に対して、が成り立つ。 等号成立条件はである、つまりならばである。証明
が無限大のときは自乗も正の無限大なので、不等号は成立する。 そのため、以降ではが有限のときを考え、このときも有限であることに注意する。 このとき、仮定の両辺にをかけることでが成り立つ。 また、仮定の両辺にをかけることでが成り立つ。 以上より、が成り立つので、が成り立つ。 等号が成立する場合にはが成り立つ。 ここで、のときには、二つの等式の両辺をで割るとが得られる。 のときはでやはりが得られる。命題 2 (自乗の非負性)
任意の拡大実数に対してが成立する。 等号成立条件はである、つまりならばである。証明
の符号により場合分けする。
- ときは、自乗の単調性で、をとすることで、が成立する。
- のとき、なので、が成立する。
なお、以上の内容をさらに詳しく考えると次のようにまとめることができる。
命題 3 (二次不等式)
を非負の拡大実数とする。 このとき任意の拡大実数に対して次が成り立つ。
- が成り立つこととが成り立つことは同値である。
- が成り立つこととが成り立つことは同値である。
- が成り立つこととが成り立つことは同値である。
証明
まず、自乗の単調性からに対してでに対してもである。 さらにやはり自乗の単調性からに対してでに対してもが成り立つ。 また、等号が成り立つ条件はのときはでのときはなので、まとめるとである。 ここで不等式においても成り立つとするとより等号が成立するのでとなり、に矛盾する。 同様にでも矛盾が導かれるので、命題の一つ目の内容が示される。 さらに不等式とが同時に成り立つとするとでとなり矛盾するので、二つ目の内容も示された。それはさておき自乗の非負性から次を得る。
命題 4
任意の実数, に対して次が成立する。
等号成立条件はである。
注意 5
平方根はまだ定義されていないが、上記の命題の, が平方根の場合を考えると、任意の, に対して、
が成立する。 ここで、を, の算術平均または相加平均、を, の幾何平均または相乗平均という。 そのため今回の不等式は算術平均は幾何平均以上であることを保証し、算術平均・幾何平均の不等式という。
証明
左辺から右辺を引いたものは
を満たすので、不等式が成立する。
次の不等式はコーシー・シュワルツの不等式と呼ばれる。
命題 6 (コーシー・シュワルツの不等式)
任意の実数, , , に対して、
が成立する。
証明
右辺から左辺を引いたものは
を満たすので、不等式が成立する。
コーシー・シュワルツの不等式は項数を増やしたり積分に一般化され、後の章で登場する。