微分
微分の導入
実数上の実数値関数とを満たす実数に対して、変数の値がからまで変化するとき関数の値はからまで変化する。 このとき変化量の割合
は関数のからまでの平均変化率と呼ばれる。 この平均変化率は様々な場面で登場する重要な量である。 例えば、関数のグラフ上の点とを結ぶ直線の傾きは平均変化率に等しく、直線の方程式は
となる。 また、を時刻でを物体の位置とすると、平均変化率は時刻からまでの平均速度を表す。
ここで、における瞬間的な変化率を考えたいとする。 そのためにはとしたいが平均変化率の定義では分母がになってしまうので、極限を用いて次のように定義する。
極限なので存在するとは限らないが、存在する場合には関数は点で微分可能といい極限を微分係数と呼ぶ。 また、を変数に置き換え直して関数と考えた際のを微分導関数という。
先の例で説明すると、関数のグラフに対してがで微分可能とするとをに近づけることで直線の方程式
を得る。 関数のグラフとこの直線は視覚的には接しているように見えることが多く、 実際図形的に定義される円(の一部)の接線と上記の直線は一致する。 そこで関数と点に対して上記の方程式式 (0.1) で定まる直線をのでの接線という。 また、を時刻とを位置とすると微分係数は時刻での速度であり、微分導関数は刻一刻と変化する速度を記録したものである。
簡単な関数で微分係数や微分導関数を計算してみよう。 まず、定数関数 ()に対しては
であり、微分導関数はである。 次に一次関数に対しては
であり、微分導関数はである。 ここまでは平均変化率がによらなかったので極限を取る必要はなかった。 二次関数に対しては
であり、微分導関数はである。
以上のように微分は原理的には平均変化率を求めて極限を取ることで計算できるが、 実際には四則演算や合成関数の微分など様々な計算規則が存在し、これらを用いることでより容易に計算できる。
微分係数と微分導関数
この節では実数の集合上で定義された実数値関数との点を考える。 特に点に対して正の数が存在してはの部分集合になっている状態を考える。 このような点をの内点という。
定義 1 (微分係数)
を実数の集合上で定義された実数値関数として、をの内点とする。 ここで、で定義された関数がで収束する時、 関数は点で微分可能であるといい極限を微分係数という。 関数の点での微分係数を
などで表す。 つまり、として
である。
注意 2
微分可能であるためには連続である必要がある。以下のことは複雑な形の関数の微分を計算する際に基礎的である。
命題 3 (和と定数倍の微分)
関数, が点で微分可能として、を実数の定数とする。 この時、和と定数倍もで微分可能で、
が成立する。
このことを微分の線形性という。
証明
で
より示される。
命題 4 (積の微分)
関数, が点で微分可能とする。 この時、積もで微分可能で、
が成立する。
証明
で
より示される。
命題 5 (商の微分)
関数, が点で微分可能でとする。 この時、商もで微分可能で、
が成立する。
証明
で
より示される。
命題 6 (合成関数の微分)
関数が点で微分可能でが点で微分可能とする。 この時、合成関数もで微分可能で、
が成立する。
証明
でに注意して、
より示される。
この公式は, として
と考えると覚えやすい。
命題 7 (逆関数の微分)
を実数の集合とし、連続関数に対して逆関数が連続関数として存在するとする。 ここでがの内点で微分可能でとするとき、 はの内点であり逆関数は点で微分可能で
が成立する。
逆関数は合成関数によりと特徴づけられるので、が微分可能であれば逆関数の微分の公式は合成関数の微分の公式から従うが、今回は逆関数の微分可能性も示す必要がある。
証明
でと置き換えることでの連続性からなので
より示される。
関数の極限に右極限・左極限があったように微分にも右微分と左微分が定義される。
定義 8 (片側微分)
を実数の集合上で定義された実数値関数として、をの内点とする。
で定義された関数が右からの極限で収束する時、 関数は点で右微分可能であるといい極限を右微分係数という。 関数の点での右微分係数を
などで表す。 つまり、
である。
で定義された関数が左からの極限で収束する時、 関数は点で左微分可能であるといい極限を左微分係数という。 関数の点での左微分係数を
などで表す。 つまり、
である。
右微分・左微分の記号はの肩でなく上のの肩に符号を書くことが多いが、本テキストでは様々な事情によりこの記法を採用する。
微分可能であることの必要十分条件は右微分係数と左微分係数が一致することである。
命題 9
関数が点で微分可能であることの必要十分条件は、 関数が点で右微分可能かつ左微分可能で
が成り立つことである。
証明
右極限、左極限が一致しているので従う。実数の集合であってのすべての点がの内点になっているものを開集合という。 開区間は開集合である。
定義 10 (微分導関数)
を開集合上で定義された実数値関数とする。 ここで、のすべての点で関数が微分可能であるときは上微分可能であるという。 この時、に対して微分係数を対応させる集合上の実数値関数をの微分導関数という。 関数の微分導関数を
などで表す。
微分導関数はしばしば導関数と略される。
これまでの内容から以下がわかる。
命題 11 (四則演算の導関数)
関数, が開集合で微分可能とする。 この時、和、差、積、各でのとき商も上微分可能で、
が成立する。
命題 12 (合成関数の導関数)
関数が開集合で微分可能で、関数が開集合で微分可能とする。 のとき、合成関数はで微分可能で、
が成立する。
命題 13 (逆関数の導関数)
を開集合とし、連続関数に対して逆関数が連続関数として存在するとする。 ここでがで微分可能ですべてのでとするとき、 逆関数はで微分可能で
が成立する。
種々の関数の微分
を実数として定数関数はで微分可能で、
である。
実数とに対してべき関数はで微分可能で、
である。
でない実数とに対して負べき関数はで微分可能で、
である。
定数関数とべき関数と負べき関数の結果を合わせて整数に対して、
とまとめて書けるが、の範囲が異なることに注意する。
多項式関数はで微分可能で、を個の実数定数として
である。
指数関数の微分を考える際にはまずネイピア数を底とする指数関数を考える。 指数関数はで微分可能で、前巻で示した指数関数に関する極限の式より
である。 一般の底に対してはに注意して合成関数の微分より
である。
対数関数は指数関数の逆関数であることからで微分可能で、
である。
正の数と実数に対してべき関数はで微分可能で、に注意して、
である。 この方法の肝は関数の微分を計算するときに対数を取った関数の微分を考えていることである。
命題 1 (対数微分法)
関数を開集合上で微分可能な正の実数値関数とする。 このとき、
が成立する。
証明
計算すると
であることから従う。
例 2
()とおくとであることから、
である。
例 3
()とおくとであることから、
である。
正弦関数はで微分可能で、正弦関数の和積公式と極限の公式より
余弦関数もで微分可能で、
正接関数はで微分可能で、
逆正弦関数はで微分可能で、
逆余弦関数もで微分可能で、
逆正接関数はで微分可能で、
ここでから従う公式を用いた。
双曲線正弦関数はで微分可能で、
双曲線余弦関数もで微分可能で、
双曲線正接関数はで微分可能で、
逆双曲線正弦関数はで微分可能で、
逆双曲線余弦関数はで微分可能で、
逆双曲線正接関数はで微分可能で、
ここでから従う公式を用いた。
絶対値関数はで微分可能で、
である。 ここででは微分可能でないことに注意する。 しかしながら、はで右微分可能かつ左微分可能であり、
が成り立つ。
符号関数はで微分可能で、
ただし、では微分可能でないことに注意する。
床関数と天井関数はともにで微分可能で、
ただし、では微分可能でないことに注意する。 しかしながら、はで右微分可能であり、はで左微分可能である。
ここで、対数関数はで微分できるが、導関数はで定義されている。 そこで絶対値関数との合成を取ることで関数の定義される集合を拡張するという技法が知られている。 つまり、でない実数に対して
である。 同様のことは逆双曲線正接関数についてもいえるが、こちらは
であることを思い出して以下のようにする。 つまり、でない実数に対して
となる。
以上をまとめると各種関数の微分は以下のようになる。
命題 4 (種々の関数の微分)
を実数として以下が成立する。
微分と増減
定義 1 (極大・極小)
を実数の集合上の実数値関数とする。
- の内点であって、ある正の数が存在してとなるのことをの極大点といい、は点で極大、またこの時のをの極大値という。 つまり、をの極大点とするとある正の数が存在して任意のつまりを満たすすべての点に対してが成り立つ。
- の内点であって、ある正の数が存在してとなるのことをの極小点といい、は点で極小、またこの時のをの極小値という。 つまり、をの極小点とするとある正の数が存在して任意のつまりを満たすすべての点に対してが成り立つ。
極大・極小は対象となる点の近くに限れば最大・最小となっている状況であり、関数に対して複数あることがある(ないこともある)。 また、最大点・最小点は必ず極大点・極小点である。
例 2
関数において、は極大点であるが、なので、最大点ではない。最大・最小・極大・極小と微分を結びつける次の定理は非常に重要である。
定理 3 (最大値原理)
実数の集合上の関数がの内点で最大または極大または最小または極小とする。 ここで、がで微分可能であるとすると、が成立する。証明
が極大点のときを考える。 つまり、あるが存在して任意のに対してが成り立つとする。 この時
したがって、
であり、で微分可能なので命題 9 より、
である。 最大点の時は極大点なので同じ証明でよい。 最小点、極小点の時は同様の議論をすることで式 (0.2) の代わりに
が得られて同じ結論が導かれる。
注意 4
証明を見ればわかる通り微分可能でなくとも、関数が極大点で右微分可能ないし左微分可能とすると不等式式 (0.2) が成り立ち、関数が極小点で右微分可能ないし左微分可能とすると不等式式 (0.3) が成り立つ。この定理が重要な理由は関数の最大点・最小点を見つける問題が方程式を解くことに帰着されることにある。 そこでこの方程式のことを極値方程式といい、その解を停留点という。 最大値原理より、停留点は極大点・極小点の候補となる。
例 5
上の連続関数
を考える。 この関数は, , なので、最大値を持つ。 (このことを厳密に示そうとしたらより二つの実数が存在してまたはでとなり、よりであり、は連続関数なので最大値最小値定理よりこの範囲で最大値を取り、その値は以上なので最終的に上での最大値であることがわかる。) ここで、微分導関数は
であり、最大点においてこれがになるが、以外ありえない。 よってはで最大となることが結論付けられる。
微分を使って関数の増減などの挙動を調べる際に基礎的になるのが次の平均値の定理である。
定理 6 (平均値の定理)
有界閉区間上の関数が上で連続で上で微分可能とする。 この時、あるが存在して
が成り立つ。
そしてその証明は次の特別な場合に示せばよい。
定理 7 (ロルの定理)
有界閉区間上の関数が上で連続で上で微分可能とする。 ここでの時、あるが存在してが成り立つ。証明 (ロルの定理の証明)
は有界閉区間上の連続関数より中間値の定理から最大点と最小点が存在する。 ここで、の時は最大値と最小値が一致するのでは定数関数で、各に対してかつに対してである。 よって、この場合はとすればよい。 そうでない場合はかのうち少なくとも一方がより、である。 さらに最大値原理(定理 3)よりなので、定理の証明が完成した。平均値の定理から直ちに以下のことがわかる。
定理 8
を有界閉区間上の連続関数とする。
- がすべての内点で微分可能でを満たすならば、が成り立つ。
- がすべての内点で微分可能でを満たすならば、が成り立つ。
- がすべての内点で微分可能でを満たすならば、が成り立つ。
- がすべての内点で微分可能でを満たすならば、が成り立つ。
- がすべての内点で微分可能でを満たすならば、が成り立つ。
証明
一つ目の主張のみ示す。 関数は上連続で上微分可能なので、平均値の定理よりとなる点が存在する。 はの内点なので仮定よりよりがわかる。 他の主張も同様に示される。系 8.1
を区間上の連続関数とする。
- がすべての内点で微分可能でを満たすならば、は狭義単調増加である。
- がすべての内点で微分可能でを満たすならば、は広義単調増加である。
- がすべての内点で微分可能でを満たすならば、は狭義単調減少である。
- がすべての内点で微分可能でを満たすならば、は広義単調減少である。
- がすべての内点で微分可能でを満たすならば、は定数関数である。
この定理を用いると、微分がとなる点で区間を分割することで関数の増減を知ることができる。
例 9
関数の例を考えるとでを解くとである。 したがってこの関数はで狭義単調減少しで極小となりで狭義単調増加しで極大となりで狭義単調減少しで極小となりで狭義単調増大する。系 9.1 (微分判定法)
を区間上の連続関数として、とする。
- がなるすべての内点で微分可能でかつなるすべての内点で微分可能でを満たすならば、はで最大となる。
- がなるすべての内点で微分可能でかつなるすべての内点で微分可能でを満たすならば、はで最小となる。
最大値原理は最大・最小の必要条件を与えるが、この定理は十分条件の一つを与えている。
ロピタルの定理
この節では極限の問題を微分を使って見通しをよくするロピタルの定理を紹介する。 まず、その準備として次のコーシーの平均値の定理を示す。
定理 1 (コーシーの平均値の定理)
, は有界閉区間上の連続関数で上で微分可能とする。 ここでかつ任意のに対してならば、あるが存在して
が成り立つ。
証明
に注意して関数を
とおくと、なので、ロルの定理が使えてとなるが存在する。 したがって、であり、整理してほしかった等式を得る。
定理 2 (ロピタルの定理1)
を開区間の内点、, は上の連続関数で上で微分可能であり各に対してとする。 ここで、で, でありが収束するならば、も収束して
が成り立つ。
証明
, とおいて, の定義域をに拡張すると, は上の連続関数である。 ここでを満たす点を考え、にコーシーの平均値の定理を用いれば、あるが存在して
である。 このようなに対してこのようなの中から一つ選んでと定めるとなので、とするととなることとが存在することから、
同様にしてを満たす点を考えることでに対する式も得られて、この定理の証明が完成する。
注意 3
この定理はのときでも同様のものが成り立つ。定理 4 (ロピタルの定理2)
を開区間の内点、, は上の連続関数で上で微分可能であり各に対してとする。 ここで、で, であり、が収束するならば、も収束して
が成り立つ。
この定理の証明は難しく極限の定義つまり論法までさかのぼる必要がある。
証明
を固定すると、が存在して任意のに対してである。 ここで、なる点を考え、にコーシーの平均値を用いれば、あるが存在して
つまり変形して、
が成り立つ。 ここで、先にとすることを考えると、, であることから、極限が存在すれば
次いで、とすればより、
左極限についても同様にして、この定理の証明が完成する。
注意 5
この定理はのときでも同様のものが成り立つ。リプシッツ連続関数
微分と結びついた連続性の概念としてリプシッツ連続性がある。 その定義は以下のとおりである。
定義 1 (リプシッツ連続関数)
を区間上の関数とする。 ここで、に対して次の条件を満たす有限な実数定数が存在するとき、は上でリプシッツ連続あるいは-リプシッツ連続であるという。
任意のに対してが成り立つ。
例 2
定数関数は-リプシッツ連続であり、 一次関数は-リプシッツ連続である。 しかしながら二次関数は上でリプシッツ連続でない。 これはであり、をいくら大きく設定してもが大きいとがそれを超えてしまうためである。注意 3
リプシッツ連続な関数はすべて連続関数である。次に示すようにリプシッツ連続であることの十分条件は微分導関数が有界であることである。
命題 4
を区間上の連続関数ですべての内点で微分可能とする。 ここで、微分導関数が有界のとき、はリプシッツ連続である。 より詳しくは実数が存在して全ての内点に対してのとき、は-リプシッツ連続である。証明
を取ると、平均値の定理よりとなるが存在するので、である。例 5
ここではとに対して不等式
が成立することを示す。
まずの時は正弦関数の-リプシッツ連続性に他ならず、
より成立する。
一般のに対しては, をそれぞれ, で置き換えてがで-リプシッツ連続であることを示せばよい。 そこで微分導関数を計算するとに対して、
ここですでに示したの場合でとした時のを用いれば、がわかりほしかった不等式が示された。
二階微分
微分導関数は関数でありもう一度微分できる可能性がある。 そのようにして微分の微分をすることを二階微分という。
定義 1 (二階微分)
を開集合上で定義された実数値関数であり微分導関数が存在するとする。 ここで、のすべての点で微分導関数が微分可能であるときは上二回微分可能であるといい、微分導関数の微分導関数を二階微分導関数という。 の二階微分導関数を
などで表す。
を二階微分導関数と呼ぶのに対応して、微分導関数を一階微分導関数と呼ぶことがある。
例 2
とすると、
である。
例 3
とすると、
だが、これはで微分可能でない。 このように一階微分導関数が存在しても二階微分導関数は存在しないことがある。
二階微分の情報は関数の極大・極小の判定に使える。
定理 4 (二階微分判定法)
を開区間上の二回微分可能な関数としては上で連続、とする。
- かつを満たすならば、はで極大となる。
- かつを満たすならば、はで極小となる。
証明
の時に極大を示す。 二階微分導関数が連続なので、あるが存在して任意のに対してが成り立つ。 したがって系 8.1 より一階微分導関数は狭義単調減少であり、
が成り立つ。 よって系 9.1 よりはで上の最大となるので、極大である。
極小の方も同様にして示される。
定理 5 (二階最大値原理)
を開区間上の二回微分可能な関数としては上で連続とする。
- がで最大または極大となるならば、かつが成り立つ。
- がで最小または極小となるならば、かつが成り立つ。
証明
がで極大の場合のみ示す。 背理法を使うが、定理 3 よりは成り立つので、を仮定して矛盾を導く。 すると定理 4 からはで極小となる。 はで極大かつ極小なので、あるが存在して上で定数関数となるので、となり矛盾である。
極小の場合も同様にして示される。
凸関数・凹関数
定義 1 (凸関数・凹関数)
を区間上で定義された実数値関数とする。
任意のとに対して
が成り立つとき、は上の凸関数という。
任意のとに対して
が成り立つとき、は上の凹関数という。
この凸関数の定義の条件はグラフが下に凸であることを表している。 漢字では凸は上に凸であるように見えるが、用語としては逆なので注意する。
凸関数・凹関数は必ず連続関数であることに注意する。
例 2
絶対値関数は上の凸関数である。 実際、三角不等式より
である。
凸関数であることの特徴づけの一つは二階微分が非負であることである。
命題 3 (凸関数の特徴づけ)
を開区間上で定義された実数値関数で上二回微分可能であるとする。
以下の条件は同値である。
- が上の凸関数である。
を満たす任意のに対して、
が成り立つ。
- は上単調増加である。
- 任意のに対してが成り立つ。
以下の条件は同値である。
- が上の凹関数である。
を満たす任意のに対して、
が成り立つ。
- は上単調減少である。
- 任意のに対してが成り立つ。
証明
凸関数の方について示す。
1.ならば2.について、一つ目の不等号は
と同値で、とおくと凸関数の条件式に他ならない。 もう一つの不等号は
と同値で同様に成り立つ。
2.ならば1.について、とを満たすに対して式 (0.5) を示せばよい。 とおくと、
である。
2.ならば3.について、あるいはとすることで、
を得て、は単調である。
3.ならば2.について、1.ならば2.のところでわかるようにとは同値で、片方が成り立たないとするともう片方も成り立たず、
となる。 ここで、平均値の定理よりとなるととなるが存在する。 仮定よりなので、矛盾が導かれ最終的に2.が成立することがわかる。
3.と4.の同値性は系 8.1 からすぐわかる。
凹関数の方は同様なので詳細は省略する。
注意 4
が二回微分可能でなくとも一回微分可能であれば、1., 2., 3.の同値性が示される。 が一回微分可能でなくとも1., 2.の同値性が示される。例 5
- 二乗関数は、なので、上の凸関数である。
- 指数関数は、なので、上の凸関数である。
- 対数関数は、なので、上の凹関数である。
今後は微分可能とは限らない凸関数・凹関数について詳しく見ていく。
命題 6
を区間上の実数値関数、を上の点とする。
が凸関数のとき、に対する関数は単調増加である。 つまりを満たす任意のに対して、
が成り立つ。
が凹関数のとき、に対する関数は単調減少である。 つまりを満たす任意のに対して、
が成り立つ。
証明
凸関数の方について示す。 凸関数の特徴づけ(命題 3 の1.と2.とその注意参照)を使う。
- の場合、特徴づけよりである。
- の場合、特徴づけよりである。
- の場合、特徴づけよりである。
よってどの場合もほしかった不等式が成り立つ。
凹関数の方は同様なので詳細は省略する。
凸関数・凹関数に対して次のような直線を引くことができる。
命題 7
を区間上の実数値関数、を上の点とする。
- が凸関数のとき、実数が存在して任意のに対してが成立する。
- が凹関数のとき、実数が存在して任意のに対してが成立する。
証明
凸関数の方について示す。 前の命題より任意のに対してが成り立つ。 したがって
となる実数が存在する。 あとは式を整理すればこのこそほしかった数であることがわかる。
凹関数の方は同様なので詳細は省略する。
注意 8
が微分可能な時はこの直線はのでの接線とすればよい。高階微分
微分の微分により二階微分が定義されるように、 自然数に対して微分を回繰り返すことで階微分を定義することができる。
定義 1 (高階微分)
を開集合上で定義された実数値関数でとする。 ここで以下の帰納的に定義される関数が存在したらの階微分導関数という。
- とする。
- はの微分導関数である。
つまり、階微分はもとの関数であり、階微分はの微分導関数、階微分は二階微分導関数である。 の階微分導関数を
などで表す。 階微分導関数が存在する時はは階微分可能であるという。 すべての自然数に対して階微分可能である時はは無限階微分可能であるという。 として、が階微分可能で階微分導関数が点で微分可能であるとき、はで回微分可能であるという。
例 2
べき関数を考えると、に対して
である。 特にとなり定数関数なので、のときはである。 そのため、べき関数は無限階微分可能であり、後の用語で表現するとの元である。
例 3
指数関数を考えると、微分しても不変なので、に対して
である。 そのため、指数関数は無限階微分可能であり、後の用語で表現するとの元である。
積の高階微分は二項定理と同様の式で表される。
命題 4 (一般化された積の微分)
とを階微分可能関数とするとき、
が成り立つ。
今後の議論で重要になるのは階微分可能であり微分導関数が連続であるものである。
定義 5 (連続的微分)
を開集合上で定義された実数値関数であり、とする。 ここでは階微分可能であり階微分導関数が上の連続関数であるとき、は上回連続的微分可能または上の級関数であるといい、そのような関数の集合をと表す。 すべての自然数に対して回連続的微分可能であるとき、は無限回連続的微分可能または上の級関数であるといい、そのような関数の集合をと表す。注意 6
定義から回連続的微分可能ならば階微分可能である。 連続関数でないと微分可能ではないので、階微分可能ならば回連続的微分可能である。 そのため
が成り立ち、は上の連続関数全体の集合である。 特に回連続的微分可能ならば階までの微分導関数はすべて連続関数である。 一般的な教科書ではこちらを連続的微分可能の定義としていることが多いが、同値なので本テキストでは単純な上記の定義を採用する。 また、無限回連続的微分可能と無限階微分可能は同値である。
命題 7 (連続的微分と四則演算)
を自然数またはとして、関数, を開集合上の級関数とする。 この時に対して以下の値を対応させる関数も上で級である。
- .
- .
- .
- すべてのでの時、.
証明
四則演算の微分は四則演算で表現されることから従う(詳細省略)。テイラーの定理
微分の導入のところで述べたように、 微分により関数の方程式は接線で近似されるが、 このことをより高階の微分を用いて次数の高い多項式で近似するのがテイラーの定理である。
いきなり定理の主張に入る前に多項式の形式的な導出を行う。 つまり、を級関数とし、これを点の近くで次の多項式
で近似できたとする(は定数)。 このとき、に対して
なので、 とを回微分してを考えることで、はと等しい、つまり
と推定される。 そこでと次多項式
を比較して、での近似具合を調べる。 この時の次多項式をの次テイラー多項式といい、をテイラー展開の中心という。 さらにとの差をを剰余項といい、今後はこの剰余項を評価することになる。 テイラーの定理にはの微分可能性に応じて剰余項の表現が変わり、以下のバージョンがある。
定理 1 (テイラーの定理(ペアノの剰余項))
として、を点で回微分可能とする。 このとき、でとなる関数が存在して
が成り立つ。
この時の剰余項の表現をペアノの剰余項という。
証明
に対してに注意する。 とすれば、 ロピタルの定理を回用いて最後に微分の定義から
が成り立つ。
定理 2 (テイラーの定理(ラグランジュの剰余項))
としてを開区間とし、をで階微分可能とする。 このとき、任意の点に対してとの間の点が存在して
が成り立つ。
この時の剰余項の表現をラグランジュの剰余項という。
証明
簡単のためがを満たす場合を考える。 ここで関数とを
として取る。 このとき仮定よりは微分可能で、微分導関数を計算すると
である。 コーシーの平均値定理よりである点が存在して
が成り立つ。 したがって
を得る。
注意 3
この証明において関数を取り替えることで剰余項の別の表現を得ることができる。 例えばとするとコーシーの剰余項
となる。
テイラーの定理の応用
三角関数において重要な極限としてでがあり、 これはが十分に近い時にはに近いということだがより詳しくその差はどのような挙動を示すだろうか。 このような問題にはテイラーの定理が有効である。
例 1
について
でにおいては
よりでのテイラーの定理1からでとなる関数が存在して
が成り立つ。 特には三次関数と剰余項という挙動を示すことになる。 さらには例えば極限の問題が与えられた時には
と解かれる。 なお、でのテイラーの定理を用いたが、この問題を解く上ではで十分である。
このようにテイラーの定理(ペアノの剰余項)は極限の問題を解く上で有効である。
一般に関数をより単純な性質の関数で近似することを漸近展開といい、テイラー多項式はその一つである。 テイラー多項式の項を順次計算したものをテイラー級数といい、テイラー級数による近似をテイラー展開という。 また、の場合のテイラー展開をマクローリン展開という。 以下によく用いられる基本的な関数のテイラー展開(マクローリン展開)をまとめる。
命題 2 (種々の関数のテーラー展開)
において、記号をはさんで左辺の関数に対して右辺でテイラー級数を表す。
使う際にはテイラー級数を有限次で打ち止めて剰余項を付け足すことになる。 実際には上記のテイラー展開はより広い範囲のに対しても成り立つ。 このことについてはべき級数の項で詳しく述べる。
ペアノの剰余項に対してラグランジュの剰余項の方がよりよく使われることが多い。 その理由はラグランジュの剰余項は評価することで、テイラー多項式と元の関数の差を評価したりでの極限を求めることができるためである。
例 3 (ネイピア数)
ネイピア数の値を求めるために、指数関数のでのテイラーの定理2を用いる。 計算すると
となるが存在する。 ここではすでにわかっているので、剰余項は
と評価される。 したがって、は小数点以下5桁までは確実に正しいことがわかる。 また次の剰余項(ここではに依存するのでとした)は
となるので、ネイピア数は次の式
を満たすことがわかる。
例 4 (円周率)
ネイピア数の計算に続いて円周率の値を同様の手法で求める。 その際によく用いられるのが逆正接関数である。 逆正接関数のでのテーラー展開(マクローリン展開)はグレゴリー級数と呼ばれ、
と表される。 右辺はで収束し左辺に等しいことが知られていて、ここでの場合を考えると、左辺はとなるので円周率の計算ができる。 その際の式
をライプニッツの公式という。 また、よりに近いつまりの場合を考えると収束が早くより効率よく計算でき、シャープの方法という。 以下ではそれを改良してつまりを用いて円周率の評価を行う。 (であることはであることから加法定理によりわかる。) なお、グレゴリー級数については後でべき級数の項で詳しく述べる。
でのテイラーの定理を用いるためにの微分を計算すると
でにおいては
なので、に対してが存在して
が成り立つ。 ここで、を想定するとに対してがわかるので、
となる。 ここでとするとであるので、
が保証される。
不等式への応用
凸関数・凹関数に関する有名な不等式として次のイェンセンの不等式がある。
定理 1 (イェンセンの不等式)
を区間上の実数値関数とする。 個のを上の点、をを満たす数とする。
が凸関数のとき、
が成り立つ。
が凹関数のとき、
が成り立つ。
この不等式はグラフ上の点がなす多角形の重心がグラフより上側(凸関数の場合)になることを示していて、は重みを表す。 の場合は凸関数・凹関数の定義に他ならない。 イェンセンの不等式の証明は数学的帰納法によって簡単にできるが、後で積分版イェンセンの不等式を示すために前の命題を用いたものを紹介する。
この不等式を様々な凸関数・凹関数に当てはめることでいろいろな不等式を得ることができる。
定理 2 (相加平均・相乗平均の関係式)
個の正の数に対して
が成り立つ。 より一般にはをを満たす数として
が成り立つ。
この不等式の左辺は相加平均(算術平均)、右辺は相乗平均(幾何平均)と呼ばれ、 今回の不等式は正の数に対して相乗平均より相加平均の方が常に大きいことを示していて相加平均・相乗平均の関係式と呼ばれる。
証明
対数関数 ()はより凹関数である。 ここからイェンセンの不等式を考えると、
となるので、整理して一般の場合の不等式が示される。 また、とすることで前半の不等式が得られる。
定理 3 (ヤングの不等式)
, を非負の実数、, を
を満たす実数とする。 このとき不等式
が成り立つ。
証明
またはの場合はで右辺は非負なので不等式は成り立つ。 よって以降はとする。 の場合の一般化した相加平均・相乗平均の関係式を, , , として適用すると直ちにヤングの不等式が得られる。なお、より直接的な以下の証明もある。
証明 (別証明)
に対して
とおくと、に対して
よってはで最小となるので、
したがってほしかった不等式が得られた。
例 4
と非負の実数に対して不等式
が成り立つ。 このことを微分法を使って示そう。 の対称性とまたはの場合は自明であることからのみ考えればよく、両辺にをかけることで、不等式は
に書き換えられる。 さらにで割ってとおくことで、
を示せばよいことになる。 分母を払って整理すると関数
がでであることを示せばよい。 そこで微分を計算すると
であり、もう一回微分するとにおいて
である。 したがっては単調増加関数でありなのでにおいてである。 同様にも単調増加関数でありなのでにおいて、すなわち最初の不等式式 (0.6) が成り立つことがわかる。 なお、式 (0.6) においてはは正の整数でないと意味をなさないが、途中の不等式では実数範囲に拡張でき、に対して
が成り立つ。