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極値

最大・最小

この節では基本的に実数の集合の最大・最小を扱うが、実数の演算は必要なく大小関係だけで定義されるので拡大実数の範囲で定義しておく。

𝐴を拡大実数の集合つまりℝ̄の部分集合とする。 𝐴の最大元とは𝐴の元の中で最も大きいもので、𝐴の最小元とは𝐴の元の中で最も小さいものである。 正確には以下で定義される。

定義 1 (集合の最大元と最小元)

𝐴を拡大実数の集合とする。

  • 次の二つの条件を満たす拡大実数𝑎が存在したら𝑎は𝐴の最大元といい、max𝐴と表す。

    1. 任意の𝑥∈𝐴に対して𝑥≤𝑎が成り立つ。
    2. 𝑎∈𝐴である。
  • 次の二つの条件を満たす拡大実数𝑎が存在したら𝑎は𝐴の最小元といい、min𝐴と表す。

    1. 任意の𝑥∈𝐴に対して𝑥≥𝑎が成り立つ。
    2. 𝑎∈𝐴である。

重要な事実として最大元、最小元は一意である。

命題 2

𝐴を拡大実数の集合とする。

  • 𝐴の最大元は存在したら一つしかない、つまり𝑎, 𝑏を𝐴の最大元とすると𝑎=𝑏である。
  • 𝐴の最小元は存在したら一つしかない、つまり𝑎, 𝑏を𝐴の最小元とすると𝑎=𝑏である。

証明

最大元について証明する。 𝑎,𝑏は𝐴の最大元より最大元の定義の二つ目の条件から𝑎,𝑏∈𝐴である。 ここで𝑎は𝐴の最大元より最大元の定義の一つ目の条件で𝑥=𝑏とすることで、𝑏≤𝑎である。 同様に𝑏は𝐴の最大元より最大元の定義の一つ目の条件で𝑥=𝑎とすることで、𝑎≤𝑏である。 これら二つの大小関係から𝑎=𝑏が従う。

最小元についても同様なので証明は省略する。

最大元、最小元は一意ではあるが存在するとは限らない。 特に空集合には(最大元、最小元の定義の二つ目の条件が問題になって)最大元、最小元が存在しない。

一方で存在が保証される場合がいくつかある。 最大・最小の基礎は有限集合である。

命題 3

𝐴を拡大実数の空でない有限集合とする。 このとき𝐴には最大元と最小元が存在する。

例 4

𝐴が2つの数𝑎, 𝑏からなる2点集合𝐴={𝑎,𝑏}の時を考える。 このとき𝑎≤𝑏の場合と𝑏≤𝑎の場合がある。

  • 𝑎≤𝑏の場合は𝑏が𝐴の最大元で𝑎が𝐴の最小元である。
  • 𝑏≤𝑎の場合は𝑎が𝐴の最大元で𝑏が𝐴の最小元である。

よって、どちらの場合でも最大元と最小元が存在する。 なお、両方の場合は𝑎=𝑏なのでそもそも𝐴は1点集合であるが、最大元と最小元がともに𝑎=𝑏となっているともいえる。

証明 (命題 3 の証明)

証明は元の個数に関する数学的帰納法による。 最大元についてのみ示す。 𝐴の元の個数が1つのとき、その元こそ𝐴の最大元である。 𝑛=1,2,3,…個の元からなる集合に対して最大元が存在することが示されたとする。 ここで𝑛+1個の元からなる集合𝐴={𝑎1,𝑎2,𝑎3,…,𝑎𝑛,𝑎𝑛+1}について、 帰納法の仮定より𝑛個の元からなる部分集合{𝑎1,𝑎2,𝑎3,…,𝑎𝑛}には最大元𝑎が存在する。

  • 𝑎≤𝑎𝑛+1の場合は𝑎𝑛+1が𝐴の最大元である。
  • 𝑎𝑛+1≤𝑎の場合は𝑎が𝐴の最大元である。

よって、どちらの場合でも𝐴に最大元が存在し、数学的帰納法より証明が完成する。

最小元についても同様なので証明は省略する。

いくつかの区間(特に閉区間)はその定義から最大・最小がすぐ求まる。

例 5

区間[𝑎,𝑏],(𝑎,𝑏]の最大元は𝑏であり、区間[𝑎,𝑏],[𝑎,𝑏)の最小元は𝑎である。 これら以外の区間には最大元、最小元は存在しない。

包含関係があると最大・最小に大小関係が従う。

命題 6 (包含関係と最大・最小)

𝐴, 𝐵を拡大実数の集合とする。

  • 𝐴, 𝐵に最大元が存在して、𝐴⊂𝐵ならば、max𝐴≤max𝐵が成り立つ。
  • 𝐴, 𝐵に最小元が存在して、𝐴⊂𝐵ならば、min𝐴≥min𝐵が成り立つ。

証明

最大についてのみ示す。 最大元の定義から、max𝐴∈𝐴⊂𝐵よりmax𝐴≤max𝐵である。 最小についても同様なので証明は省略する。

上限・下限

実数の集合𝐴に対して最大元や最小元は存在しないがそれに準じる数がある場合がある。 例えば開区間(0,1)を考えると1は最大元の0は最小元の一つ目の条件を満たしているが開区間の定義からそれぞれ(0,1)の元ではないため最大元や最小元ではない。 このようなぎりぎりまで近い数を取れるがそれ自身は元でないため最大元・最小元にならないような数のために上限・下限の概念がある。

定義 1 (集合の上限と下限)

𝐴を拡大実数の集合とする。

  • 任意の𝑥∈𝐴に対して𝑥≤𝑚が成り立つような拡大実数𝑚は𝐴の上界であるという。 𝐴の上界からなる集合に最小元がある時、その最小元を𝐴の上限といいsup𝐴と表す。
  • 任意の𝑥∈𝐴に対して𝑥≥𝑚が成り立つような拡大実数𝑚は𝐴の下界であるという。 𝐴の下界からなる集合に最大元がある時、その最大元を𝐴の下限といいinf𝐴と表す。

上限・下限が何らかの集合の最小元・最大元で定義されているので、上限・下限も一意である。

上限・下限の同値な言い換えを一つ紹介する。

命題 2

𝐴を拡大実数の集合、𝑎を拡大実数とする。

  • 𝑎が𝐴の上限であることは次の二つの条件が成り立つことと同値である。

    1. 任意の𝑥∈𝐴に対して𝑥≤𝑎が成り立つ。
    2. 任意の拡大実数𝑏<𝑎に対してある𝑥∈𝐴が存在して𝑏<𝑥が成り立つ。
  • 𝑎が𝐴の下限であることは次の二つの条件が成り立つことと同値である。

    1. 任意の𝑥∈𝐴に対して𝑥≥𝑎が成り立つ。
    2. 任意の拡大実数𝑏>𝑎に対してある𝑥∈𝐴が存在して𝑏>𝑥が成り立つ。

証明

上限について証明する。 𝑎が𝐴の上限である時、𝑎は𝐴の上界なので一つ目の条件が満たされる。 二つ目の条件について背理法でもし成り立たないとするとある実数𝑏<𝑎が存在して任意の𝑥∈𝐴に対して𝑏≥𝑥である。 したがって𝑏も𝐴の上界だが、𝑏<𝑎より𝑎が𝐴の上界からなる集合の最小元だったことに矛盾する。 よって、二つ目の条件が成立する。 逆に、二つの条件が満たされるとき、まず一つ目から𝑎は𝐴の上界である。 𝑏を𝐴の上界とするとき𝑏≥𝑎を示すが背理法で𝑏<𝑎だったとする。 二つ目の条件から𝑏<𝑥となる𝑥∈𝐴が存在するが、これは𝑏が𝐴の上界でなく矛盾である。 したがって𝐴の上界𝑏は𝑏≥𝑎を満たすので、𝑎は𝐴の上限である。 以上より同値性が成り立つ。

下限についても同様に証明できる。

上限・下限の利点は拡大実数の範囲では常に存在することである。

命題 3 (実数の連続性、上限公理)

拡大実数の集合𝐴には上限と下限が拡大実数として存在する。

証明

上限について示す。 証明は有理数の切断による。 𝐴の上界からなる集合𝑈として𝐿=𝑅̄\𝑈とおく。 このとき、𝑎∈𝐿と𝑏∈𝑈に対して𝐿,𝑈の定義から𝑚∈𝐴が存在して𝑎<𝑚が成り立つので𝑎<𝑏が成り立つ。 そのため、𝐿は切断のようになっており、実際𝐿=𝐿∩ℚは空集合または全体集合または有理数の切断である。 このうち空集合は−∞、全体集合は+∞に対応するので、𝐿が有理数の切断である場合を考える。 さらに𝐿から一つの有理数𝑎を取り出すと、𝑎は𝐴の上界ではないのである𝑚∈𝐴が存在して𝑎<𝑚であり、𝐿\{𝑎}は有理数の切断ではなくなる。 したがって、有理数の切断𝐿に対応する実数𝑎が存在し、<t_real_cut> より𝐿=(−∞,𝑎)∩ℚとできる。 特に、𝑈=[𝑎,+∞)∩ℚであり、任意の有理数𝑥,𝑦に対して𝑥∈𝑈𝑐, 𝑦∈𝑈ならば𝑥<𝑎≤𝑦が成り立つ。 したがって任意の𝑥∈𝑈𝑐, 𝑦∈𝑈に対して𝑥≤𝑎≤𝑦であり、𝑎は𝐴の上界からなる集合の最小元つまり𝐴の上限である。

下限については、𝐴の下界からなる集合𝐿が最大元を持ち有理数の切断𝐿が実数の要件を満たさないので少し工夫する必要がある。 𝐿には上限𝑎が存在する。 ここで、任意の𝑙∈𝐿と𝑥∈𝐴に対して𝑙≤𝑥が成り立つので、𝑎≤𝑥も成り立ち、𝑎は𝐴の下界である。 したがって、𝑎は𝐴の下界からなる集合の最大元つまり𝐴の下限である。

例 4

区間[𝑎,𝑏],(𝑎,𝑏],[𝑎,𝑏),(𝑎,𝑏)の上限はいずれも𝑏であり、下限は𝑎である。

上限・下限は拡大実数の範囲では常に存在するが、応用上重要なのは実数の範囲での上限・下限の存在条件である。 そのために上限・下限が存在しない場合を二つ紹介する。 一つは実数の集合𝐴に対して上界・下界が実数範囲で存在しない場合で𝐴の上界・下界からなる集合が無限大のみからなるので上限は正の無限大で下限は負の無限大となる。 この場合を排除するために次の有界性の概念を導入する。

定義 5 (集合の有界性)

𝐴を実数の集合とする。

  • 𝐴の上界が実数として存在する時、𝐴は上に有界であるという。
  • 𝐴の下界が実数として存在する時、𝐴は下に有界であるという。
  • 上に有界かつ下に有界の時𝐴は有界であるという。

上限・下限が存在しないもう一つの場合は𝐴自身が空集合の場合で、この時𝐴の上界からなる集合と下界からなる集合はともに拡大実数全体になってしまい、𝐴の上限は負の無限大で下限は正の無限大となる。 しかしながらこれら二つの場合を除けば常に実数の集合には上限・下限が存在する。 より正確には以下が成立する。

命題 6 (実数の連続性、上限公理)

𝐴を実数の集合とする。

  • もし𝐴が上に有界かつ空でないならば𝐴の上限が実数として存在する。
  • もし𝐴が下に有界かつ空でないならば𝐴の下限が実数として存在する。
  • もし𝐴が有界かつ空でないならば𝐴の上限と下限が実数として存在する。

冒頭に述べたように最大元・最小元と上限・下限は密接な関係がある。

定理 7

𝐴を実数の集合とする。

  • もし𝐴が最大元を持つならばそれは𝐴の上限でもある。
  • もし𝐴が最小元を持つならばそれは𝐴の下限でもある。

証明

最大元についてのみ示す。 𝑎を𝐴の最大元とするとき、任意の𝑥∈𝐴に対して𝑥≤𝑎なので𝑎は𝐴の上界である。 𝑚を𝐴の上界とするとき、𝑎∈𝐴を考えると𝑎≤𝑚である。 すなわち𝑎は𝐴の上界の集合の最小元なので下限に他ならない。

最小元については同様なので証明は省略する。

命題 8 (包含関係と上限・下限)

𝐴, 𝐵を拡大実数の集合とする。 ここで、𝐴⊂𝐵が成り立つならば、

sup𝐴≤sup𝐵,inf𝐴≥inf𝐵

が成り立つ。

証明

上限についてのみ示す。 拡大実数𝑚を𝐵の上界とすると、任意の𝑥∈𝐴⊂𝐵に対して𝑥≤𝑚より、𝑚は𝐴の上界でもある。 つまり、𝐵の上界からなる集合は𝐴の上界からなる集合の部分集合なので、命題 6 よりsup𝐴≤sup𝐵である。

下限についても同様なので証明は省略する。

最後に実数の連続性に関連して整数や自然数の集合では上限・下限どころか最大元・最小元が存在することを示す。

命題 9

次が成立する。

  • もし整数の集合𝐴が上に有界かつ空でないならば𝐴の最大元が存在する。
  • もし整数の集合𝐴が下に有界かつ空でないならば𝐴の最小元が存在する。
  • もし自然数の集合𝐴が上に有界かつ空でないならば𝐴の最大元が存在する。
  • もし自然数の集合𝐴が空でないならば𝐴の最小元が存在する。

証明

まず、最初の内容を示す。 𝐴は空でないので整数𝑁∈𝐴が存在する。 また、𝐴は上に有界なので任意の𝑥∈𝐴に対して𝑥≤𝑀となるような整数𝑀が存在する。 ここで𝐴のうち𝑁以上𝑀以下のものに制限して得られる集合𝐴∩{𝑁,…,𝑀}は高々𝑀−𝑁+1個の元からなる有限集合なので命題 3 より最大元𝑎が整数として存在する。 この時、任意の𝑥∈𝐴∩{𝑁,…,𝑀}に対して𝑥≤𝑎かつ𝑎∈𝐴かつ𝑁≤𝑎≤𝑀である。 ここで𝑥∈𝐴に対して𝑥≤𝑁の時は𝑥≤𝑁≤𝑎で、𝑁≤𝑥≤𝑀の時は上より𝑥≤𝑎で、𝑀の取り方から𝑥>𝑀は起こりえないので、どの場合でも𝑥≤𝑎である。 加えて𝑎∈𝐴だったので整数𝑎が𝐴の最大元である。

二つ目の内容も同様にして証明できる。 三つ目の内容は自然数の集合は整数の集合とみなすことができるので、一つ目から直ちに従う。 四つ目の内容は自然数の集合は整数の集合とみなすことができることと、自然数の集合は常にどの元も0以上より下に有界なので、二つ目から直ちに従う。

関数の最大・最小

関数の最大・最小はその像の最大・最小として定義される。

定義 1 (関数の最大・最小・上限・下限)

𝑓を集合𝑋上の拡大実数値関数とする。

  • 像𝑓(𝑋)の最大を関数𝑓の最大値といい、

    max𝑓,max𝑋𝑓,max𝑥𝑓(𝑥),max𝑥∈𝑋𝑓(𝑥)

    などと表す。

  • 像𝑓(𝑋)の上限を関数𝑓の上限といい、

    sup𝑓,sup𝑋𝑓,sup𝑥𝑓(𝑥),sup𝑥∈𝑋𝑓(𝑥)

    などと表す。

  • 像𝑓(𝑋)の最小を関数𝑓の最小値といい、

    min𝑓,min𝑋𝑓,min𝑥𝑓(𝑥),min𝑥∈𝑋𝑓(𝑥)

    などと表す。

  • 像𝑓(𝑋)の下限を関数𝑓の下限といい、

    inf𝑓,inf𝑋𝑓,inf𝑥𝑓(𝑥),inf𝑥∈𝑋𝑓(𝑥)

    などと表す。

  • 𝑓(𝑎)=max𝑓となる𝑎∈𝑋のことを𝑓の最大点といい、𝑓は点𝑎で最大という。 つまり、𝑎を𝑓の最大点とすると任意の𝑥∈𝑋に対して𝑓(𝑥)≤𝑓(𝑎)が成り立つ。
  • 𝑓(𝑎)=min𝑓となる𝑎∈𝑋のことを𝑓の最小点といい、𝑓は点𝑎で最小という。 つまり、𝑎を𝑓の最小点とすると任意の𝑥∈𝑋に対して𝑓(𝑥)≥𝑓(𝑎)が成り立つ。

例 2

極端な例として、定数関数𝑓(𝑥)=𝑐がある。 この関数の像は𝑐のみからなる集合なので、最大値も最小値も上限も下限も𝑐であり、任意の𝑥∈𝑋が最大点かつ最小点である。

この上限・下限の性質として次が重要である。

命題 3 (大小関係と上限・下限)

𝑓, 𝑔を集合𝑋上の拡大実数値関数として、 任意の𝑥∈𝑋に対して𝑓(𝑥)≤𝑔(𝑥)を満たしているとする。 このとき、

sup𝑓≤sup𝑔,inf𝑓≤inf𝑔

が成り立つ。

証明

上限についてのみ示す。 任意の𝑥∈𝑋に対して𝑓(𝑥)≤𝑔(𝑥)≤sup𝑔なので、sup𝑔は𝑓(𝑋)の上界である。 ここでsup𝑓は𝑓(𝑋)の上界からなる集合の最小元なので、sup𝑓≤sup𝑔である。 下限についても同様なので証明は省略する。

命題 4 (和と上限・下限)

𝑓, 𝑔を集合𝑋上の実数値関数とする。 このとき、

sup𝑥∈𝑋(𝑓(𝑥)+𝑔(𝑥))≤sup𝑥∈𝑋𝑓(𝑥)+sup𝑥∈𝑋𝑔(𝑥),inf𝑥∈𝑋(𝑓(𝑥)+𝑔(𝑥))≥inf𝑥∈𝑋𝑓(𝑥)+inf𝑥∈𝑋𝑔(𝑥)

が成り立つ。

証明

上限についてのみ示す。 任意の𝑥∈𝑋に対して、𝑓(𝑥)≤sup𝑓, 𝑔(𝑥)≤sup𝑔なので、足して𝑓(𝑥)+𝑔(𝑥)≤sup𝑓+sup𝑔である。 よって、𝑥についての上限を取ることでほしい不等式を得る。 下限についても同様なので証明は省略する。

注意 5

本命題は実数値関数のみを対象としているが、和が不定形にならなければ拡大実数値関数でも成立する。

次の命題は今後の議論で用いることがある。

命題 6

𝑓, 𝑔をそれぞれ集合𝑋, 𝑌上の実数値関数とする。 ここで任意の𝑥∈𝑋と任意の𝑦∈𝑌に対して𝑓(𝑥)≤𝑔(𝑦)が成り立つとき、sup𝑓≤inf𝑔が成り立つ。

証明

任意の𝑥∈𝑋を固定すると、𝑦についての下限を取ることで𝑓(𝑥)≤inf𝑔となる。 よって𝑥についての上限を取ることでsup𝑓≤inf𝑔を得る。

実数の絶対値

実数(または拡大実数)𝑎に対して𝑎と−𝑎のうち大きい方の値を𝑎の絶対値といい|𝑎|で表す。 絶対値は𝑎と−𝑎の大小関係つまり𝑎の符号によって特徴づけられ、常に非負の値をとる。 つまり、

|𝑎|=max{𝑎,−𝑎}={𝑎(𝑎≥0),−𝑎(𝑎≤0)

である。 絶対値は符号を取り除いた数値といえるし、0からの距離ともみなせる。

絶対値において重要な事項は次の三角不等式である。 |−𝑎|=|𝑎|であることに注意する。

命題 1 (実数の絶対値の三角不等式)

二つの実数𝑎と𝑏に対して不等式

||𝑎|+|𝑏||≤|𝑎+𝑏|≤|𝑎|+|𝑏|,||𝑎|−|𝑏||≤|𝑎−𝑏|≤|𝑎|+|𝑏|

が成り立つ。

四つの不等式があるが実質的には二つ目の|𝑎+𝑏|≤|𝑎|+|𝑏|が重要で、他の三つはこの不等式からすぐに得られる。

証明

絶対値の定義より|𝑎|≥𝑎,−𝑎なので−|𝑎|≤𝑎≤|𝑎|であり、同様に−|𝑏|≤𝑏≤|𝑏|である。 よって、辺々足せば

−|𝑎|−|𝑏|≤𝑎+𝑏≤|𝑎|+|𝑏|.

特に𝑎+𝑏≤|𝑎|+|𝑏|かつ−𝑎−𝑏≤|𝑎|+|𝑏|なので、

|𝑎+𝑏|=max{𝑎+𝑏,−𝑎−𝑏}≤|𝑎|+|𝑏|

を得る。

あとはこの式の𝑎を𝑎+𝑏、𝑏を−𝑏とすれば|𝑎|=|(𝑎+𝑏)+(−𝑏)|≤|𝑎+𝑏|+|−𝑏|=|𝑎+𝑏|+|𝑏|より|𝑎|−|𝑏|≤|𝑎+𝑏|。 また𝑎を𝑎+𝑏、𝑏を−𝑎とすれば|𝑏|=|(𝑎+𝑏)+(−𝑎)|≤|𝑎+𝑏|+|−𝑎|=|𝑎+𝑏|+|𝑎|より|𝑏|−|𝑎|≤|𝑎+𝑏|。 よって、||𝑎|−|𝑏||=max{|𝑎|−|𝑏|,−|𝑎|+|𝑏|}≤|𝑎+𝑏|である。

さらに𝑏を−𝑏とすれば、||𝑎|−|−𝑏||≤|𝑎−𝑏|≤|𝑎|+|−𝑏|でこれは||𝑎|−|𝑏||≤|𝑎−𝑏|≤|𝑎|+|𝑏|に他ならない。

絶対値を用いると実数の有界性を次のように特徴づけることができる。

命題 2

実数の集合𝐴が有界であることと、ある実数𝑀が存在して任意の𝑥∈𝐴に対して|𝑥|≤𝑀が成り立つことは同値である。

証明

𝐴が有界であるならば、実数の上界𝑎と下界𝑏が存在し、任意の𝑥∈𝐴に対して𝑏≤𝑥≤𝑎となる。 ここで𝑀=max{|𝑎|,|𝑏|}とおけば、𝑀≥−𝑏かつ𝑀≥𝑎なので−𝑀≤𝑥≤𝑀であり、|𝑥|≤𝑀である。 逆に|𝑥|≤𝑀ならば−𝑀≤𝑥≤𝑀なので、𝐴は有界である。

平方根と複素数の絶対値

平方根は逆関数の定理を用いて導入した方が理論の統一感があり連続性や単調性もいえて便利であるが、ここでは上限・下限の応用として導入する。 理由としては複素数での極限の定義において絶対値を準備するために平方根が必要だからである(ただし実際には実数の絶対値はすでに前の節で導入されたので、実数の極限が定義でき平方根が定義できた時点で改めて極限のところに戻って複素数に対して定義すればよい)。

非負の拡大実数𝑎に対して、集合𝐴={𝑥≥0|𝑥2≤𝑎}の上限を𝑎の平方根といい𝑎で表す。 この集合𝐴は0∈𝐴なので空でなく、任意の𝑥∈𝐴に対して𝑥≥1なら𝑥≤𝑥2≤𝑎よりmax{1,𝑎}が上界になっている。 したがって、𝑎は(𝑎が非負の前提のもとで)非負値の拡大実数であり、実数の連続性より𝑎が有限のときは𝑎も有限の実数である。 また、𝑎=∞のときは𝑎=∞、つまり本テキストにおいては∞=∞とすることを認めている。

平方根の重要な性質は𝑎=0と𝑎=0が同値であることである。 実際、𝑎=0ならば、<t_ineq_square> より𝐴={0}なので、𝑎=0である。 𝑎>0のとき、min{1,𝑎}>0は𝐴の元になるので、𝑎>0である。

実数を二乗して平方根を取ると絶対値になる。

命題 1 (平方根と実数の絶対値)

拡大実数𝑎に対して、

𝑎2=|𝑎|

が成り立つ。

証明

𝑎≥0のとき、𝐴={𝑥≥0|𝑥2≤𝑎2}=[−𝑎,+𝑎]∩[0,∞]=[0,𝑎]より、𝑎2=𝑎=|𝑎|である。 𝑎≤0のとき、𝑎2=(−𝑎)2=−𝑎=|𝑎|である。

複素数の絶対値も平方根との関係が強い。 複素数𝑧=𝑎+𝑏𝑖に対して、

|𝑧|=𝑎2+𝑏2

を複素数𝑧=𝑎+𝑏𝑖の絶対値という。 絶対値|𝑧|が0になる条件は𝑎2+𝑏2=0つまり𝑎=𝑏=0で𝑧=0であることに注意する。

複素数には大小関係がないが、有界性は命題 2 に基づき定義される。

定義 2 (複素数の集合の有界性)

𝐴を複素数の集合とする。 もしある実数𝑀が存在して任意の𝑥∈𝐴に対して|𝑥|≤𝑀が成り立つ時、𝐴は有界であるという。

また、複素数の絶対値に対しても三角不等式が成立する。

命題 3 (複素数の絶対値の三角不等式)

二つの複素数𝑧と𝑤に対して不等式

||𝑧|−|𝑤||≤|𝑧+𝑤|≤|𝑧|+|𝑤|,||𝑧|−|𝑤||≤|𝑧−𝑤|≤|𝑧|+|𝑤|

が成り立つ。

証明

|−𝑧|=|𝑧|に注意して二つ目の不等式|𝑧+𝑤|≤|𝑧|+|𝑤|を示す。 𝑧=𝑎+𝑏𝑖, 𝑤=𝑐+𝑑𝑖に注意して、

(|𝑧|+|𝑤|)2−|𝑧+𝑤|2=(𝑎2+𝑏2+𝑐2+𝑑2)2−(𝑎+𝑐)2+(𝑏+𝑑)22=2𝑎2+𝑏2𝑐2+𝑑2−2(𝑎𝑐+𝑏𝑑)

である。 ここでコーシー・シュワルツの不等式よりこれは0以上であることがわかる。

他の三つの不等式は実数のときと同様に示される。