一様分布論
一様分布定理
この章では一様分布定理と呼ばれる今までとは少し趣の異なる極限に関する定理を紹介する。 内容的には高度なものになるので読み物としてみた方がよいかもしれない。
その一様分布定理を述べるために次の用語を定義する。
定義 1 (一様分布列)
各に対してを満たす数列がで一様分布するとは任意のに対して
が成り立つことである。 ただし、有限集合に対して、自然数として定まる元の個数をと書く。
この条件は区間に入るの割合がであるとみなせる。 以降ではをしばしばと表現する。
注意 2
上の数列が一様分布することは、 各に対してである数列, であってで, となるものについて
が成り立つことと同値である。 実際、こちらの方が強い条件になっていて、逆については任意のに対して、あるが存在して任意の自然数に対して, が成り立つことから、に対して
よって、で割ってとすると右辺はに収束する。 は任意なので、逆がいえた。
という区間は実数の床(整数部分)を引いた小数部分の属する集合として現れた。 そこで一般の実数列に対しても小数部分の列が一様分布するかどうかで一様分布列の概念を導入する。 なお、という記号は集合の記号と紛らわしいがよく使われるので本テキストでも採用し文脈によってどちらの意味か判断される。
注意 3
小数部分の演算について任意の実数に対して、である場合はであり、そうでない場合はであることに注意する。以上の準備の下で一様分布定理は次のように表現される。
定理 4 (一様分布定理)
を無理数でを実数とするとき、数列は一様分布する。のとと引っ付けて輪っかのように見なすと、というのは輪っかをぐるぐるまわる感じになっており回転と呼ばれは角度のような役割を果たす。
この定理においてが無理数であることが非常に重要で、例えばが有理数、の場合はが増えるともとの位置に戻るため、の取りうる値はとなり一様分布にはならない。 無理数の場合は表現が正確ではないが分母が無限大のような状況になっていて、 は上均等にまんべんなく分布するということを定理は主張している。
一様分布定理と関連の深い話題として次のクロネッカーの稠密定理がある。
定理 5 (クロネッカーの稠密定理)
を無理数でを実数とするとき、数列はで稠密である、 つまり任意のに対してを満たすが存在する。一様分布するならば自動的に稠密であるので、クロネッカーの稠密定理は一様分布定理より弱い内容を主張する定理である。 しかしながら、今回の一様分布定理の証明ではクロネッカーの稠密定理を利用するので証明を与える。
証明 (クロネッカーの稠密定理の証明)
まず、とするとあるが存在してとできることに注意する。 このに対して次の議論をする。 つまり区間を等分するとのうちつは同じ小区間の中に入りとおく。 このときが無理数であることから、である。 よって、をとするとまたはであり、 これを何倍かするととなるが存在するので稠密性が示された。一様分布定理の証明はワイルの証明が知られているがここでは別の証明を与える。 まず、次の補題を準備する。
補題 6
を実数列とする。 数列が一様分布することと 任意の実数に対して
が成り立つことは同値である。
証明
まず一様分布であることの定義より、が一様分布することは任意のに対して
が成り立つことと同値であることに注意する。 実数に対して、
ここから補題が成立することがわかる。
証明 (一様分布定理の証明)
とを固定する。 の稠密性は示されているので、
となるが存在する。 ここで任意の整数に対して
を示す。 実際、
で、より、
から従う。 よって、
したがって、
また、としてを取り同様のことをすれば
よっては任意であることと補題より一様分布定理が証明された。
次の命題は一様分布する数列に小さな修正を加えても一様分布であることを主張する。
命題 7
, , を実数列として各に対してが成り立つとする。 ここでが一様分布してでであるならば、も一様分布する。証明
任意の実数と各に対して、もしならば
が成り立つことに注意する。 実際、であり、だとするとである。 ここで仮定からで最左辺と最右辺の整数部分が等しくないとならないので、
である。 同様にして、もしならば
が成り立つ。 以上のことから、
となり、で割ってとすると、よりであること(<t_average_conv>)とが一様分布することから右辺はに収束する。 ここからはと同様に一様分布することがわかる。
また、本テキストでは扱わないが積分を用いれば、一様分布の内容から次の拡張が得られる。
命題 8
を上の有界な実数値関数でと拡張したときには上(リーマン)積分可能とする。 このとき上の一様分布する数列に対して
が成り立つ。
証明
を固定する。 リーマン積分可能であることからに対して、いくつかの区間指示関数の定数倍の和であって
を満たす関数, が存在する。 は一様分布するので区間指示関数の定数倍の和, に対して式 (0.2) が成り立つことに注意して、
ここでは任意なので、一般のに対しても式 (0.2) が成り立つことがわかった。
注意 10
今回の一様分布定理の証明では直接式 (0.1) を、つまり区間指示関数に対して式 (0.2) を証明したが、 ワイルの方法は最初に和の計算ができる(はでない整数)に対して証明して、連続関数に拡張して区間指示関数と進めていく。 この証明法は複素数値の関数の積分やフーリエ解析の知識が必要になるため本テキストではこれ以上触れないが、様々な発展性があり重要である。 一方で今回の証明は<r_z15> を参考にした。一様分布定理の応用:先頭の位の数
一様分布定理の「小数部分」が登場する話題が先頭の位の数である。 例えばに対しての先頭の位の数を考えてみよう。 を並べて書き出すと
, , , , , , , , , , , , , , , , , , , ,
なのでその先頭の位の数は
, , , , , , , , , , , , , , , , , , , ,
となる。
この数列の中で数字が現れる頻度を計算するときに活躍するのが一様分布定理である。 なお、上に列挙した範囲でははの繰り返しに見えるが実際にはなのではやの値を取りうることに注意する。
一般に正の整数(または正の実数)について桁数を、先頭の位の数をとすると
なので、を底とする対数(常用対数)をとると
となる。 ここからの最上位の数がとなる条件は
となることであり、に対して関数の値をの場合にとして定義すると となる。
の問題に戻ると
である。 ここでは無理数なので、は上一様分布する。 のうちの割合を
として考えると、この値は一様分布定理より
となることがわかる。 また、の期待値に相当する
は
である。 以上の値を計算しまとめたのが次の表 1 である。
この話題の興味深いところは一様分布すれば底は別の数(やなど常用対数が無理数になる数)でも同じ値になることである。 さらにはの代わりにフィボナッチ数の列でも割合や期待値は同じ値になる。 なお、フィボナッチ数は
, , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , ,
でその最上位の位の数は
, , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , ,
である。
これはフィボナッチ数の一般項が
のように計算され、主要な部分の底の常用対数が無理数であることによる。 より詳しくは, とすると、 任意のに対して不等式が成り立つことに注意して、
で、は一様分布し、なので、も一様分布することがわかる。
このように様々な数列の最上位の位の数は表 1 で示されたある特定の分布に従う。 このことはより複雑な機構によって決まると考えられる現実世界の様々な数にもみられてベンフォードの法則と呼ばれている。