空間
点と空間
平面上の点は座標軸を定めるとその座標を読み取ることで2つの(実)数の組(対)が対応する。 また、三次元空間は3つの実数の組が対応する。 しかしながら空間が何かと聞かれたら幾何学的な問題となり難しいので、本テキストでは逆にとして個の実数の組のことを次元空間上の点と呼び、次元空間上の点をすべて集めたものを次元空間ということにする。 つまり次元空間とは実数の直積に他ならない。 のとき、つまりは直線といい、 のとき、つまりは平面という。 次元空間の点の集合つまり次元空間の部分集合のことを次元点集合と呼ぶことがある。
次元空間上の点に対して、実数をの第成分という。 ただし、である。 点に対して、第成分をまたはと表すことがある。 この節では点を大文字のを使って書いているが以降ではや変数の場合はなど小文字を用いることもある。
次元空間上の演算において最も基礎的になるのは(ユークリッド)距離である。 つまり、二点, 間の距離をピタゴラスの定理(三平方の定理)にもとづき
と定義する。
距離の満たす重要な性質として次がある。
- (正値性)任意の点, に対してが成り立つ。
- (同一性)任意の点, に対してとは同値である。
- (対称性)任意の点, に対してが成り立つ。
- (三角不等式)任意の点, , に対してが成り立つ。
点と正の数に対して、から半径内の点の集合
をそれぞれ点のを半径とする開円板と閉円板という。 また、閉円板に関してはでもとして定義する。
空間ベクトル
次元空間上の2点, を取ると成分同士を引くことで新しい実数の組
が定義できる。 こののことを点から点への次元空間ベクトルあるいは単にベクトルという。
次元空間ベクトル全体も、実数の組全体であり、次元空間同様と表すが、空間と空間ベクトル全体では使える演算が異なることに注意する。 実際、ベクトルとに対して加法
が定義でき、ベクトルと実数に対して定数乗法
が定義できる。 また、2つのベクトルとに対して、
をとの内積といい、
をの大きさまたはノルムという。 二点との間の距離はそのベクトルの大きさとなる。
ベクトルは以下の性質を満たす。
- (加法の結合法則)任意のベクトルに対してが成り立つ。
- (加法の交換法則)任意のベクトルに対してが成り立つ。
- (両立法則)任意のベクトルと実数に対してが成り立つ。
- (分配法則)任意のベクトルと実数に対してとが成り立つ。
- (零ベクトル)は零元である。 つまり任意のベクトルに対してが成り立つ。
- (逆ベクトル)任意のベクトルに対してが成り立つようなベクトルがただ一つ存在する。
- (単位元)は単位元である。 つまり任意のベクトルに対してが成り立つ。
- (内積の対称性)任意のベクトルに対してが成り立つ。
- (内積の多重線形性)任意のベクトルに対してとが成り立つ。
- (内積の正定値性)任意のベクトルに対してであり、とは同値である。
- (ノルムの正値性)任意のベクトルに対してであり、とは同値である。
- (ノルムの斉次性)任意のベクトルと実数に対してが成り立つ。
- (三角不等式)任意のベクトルに対してが成り立つ。
空間ベクトルとに対して、距離をその差のノルムとする、つまり
とすると、空間上の点に対する距離と同等のものが定義できる。 もちろんこのベクトルの距離も空間上の点の距離と同様の性質を持つ。
ちなみに複素数も平面や平面ベクトル同様集合的にはであるが、複素数には乗法と除法が備わっていてさらに豊かな構造を持っている。 また、直線は実数全体と同一視されるが、直線ベクトルのノルムは実数の絶対値と同質なものである。
空間上の点と空間ベクトルに対してをだけ平行移動して空間上の点
を得ることができる。 点に対してである。
矩形と有界性
実数の集合において重要な役割を果たしていたのが区間であるが、次元空間あるいは次元空間ベクトルの空間でそれに相当するのが矩形(長方形)であり区間の直積に相当する。 特に有界閉区間に当たる有界閉矩形が重要であり、個の実数で定まる点集合
を有界閉矩形と呼ぶ。
点集合を考える。 つまり、は次元空間の部分集合である。 ここで実数が存在してが成り立つとき、は有界であるという。 つまりを被覆する有界閉矩形が存在すると言い換えることができる。
一般的な教科書では有界性を円で定義されることが多いが、矩形で定義しても円で定義しても同じである。
命題 1
点集合に対して、となる有界閉矩形が存在することととなる半径が存在することは同値である。 ただし、である。証明
有界閉矩形で被覆できたとするととして有界閉矩形でも被覆でき、とすればよい。 閉円板で被覆できたとすると、有界閉矩形でも被覆できる。本テキストで矩形を用いるのは点列の収束の議論で区間の問題に帰着させたり、リーマン積分を区間の類推で定義するためである。
自明なことであるが有界閉矩形は有界であることに注意する。
空でない有界な集合に対してそれを被覆する最も小さい有界閉矩形が存在して、以下のようにして構成できる。
命題 2
を空でない有界な次元点集合とする。 このとき、に対して以下でを定めると、 は有界閉矩形であり、であり、ならばを満たす。
このような矩形を空でない有界な点集合の最小被覆有界閉矩形と呼ぶ。
点列の極限
数列を思い出すとこれは自然数に対し数(自然数、整数、有理数、実数、複素数など)を対応させることで、無限に連なる数の並びを表現したものであった。 これと同様の発想で数の代わりに次元空間上の点あるいは次元空間ベクトルをならべたものを次元点列という。
数列に対して極限が(存在したら)あったように、点列に対しても極限の概念を導入する。 このとき、数列の極限は絶対値を使って定義していたのに対して、点列では距離を使って定義することが重要である。 つまり、点列がで点に収束するとは
任意のに対して、ある自然数が存在して、以上のすべての自然数に対してが成り立つ
ことを言う。 このことは言い換えるとで非負の実数列がに収束することと同値である。 こちらの表現の方が単純なので本テキストでは以下のように点列の極限を定義する。
定義 1 (点列の極限)
点列がで点に収束するあるいはがのでの極限であるとはで
が成り立つことをいう。 点列が何らかの数に収束する時この点列は収束するといい、そうでない時発散するという。
例 2
を定点として定点列の極限はである。極限は存在したら一意である。
命題 3
点列が収束したらその極限は一つしかない、つまりがに収束しにも収束したとするとである。証明
三角不等式より
で、についての極限を取ると右辺はに収束するのではさみうちの原理よりがわかる。 よって、距離の同一性よりである。
命題 4
を点列、を点とする。 もしの任意の部分列がに部分列収束する、つまりに収束する部分列が存在するとき、はに収束する。証明
非負の実数列を考えると実数列での対応する命題が成り立つので、であり証明が完了する。連続関数
この節では主に多変数関数の極限や連続性について見ていく。 このとき直積を次元空間と同一視すると関数は空間上の点からの一変数関数のように見なすことができ、点列の収束のところで見たように実数だったら絶対値を使っていたところを距離に置き換えることで、極限が定義できる。
より詳しくはとして、次元点集合上で定義された実数値関数を考える。 点は、任意の正の数に対してを満たすが存在するとして、このようなをの極限点という。 点列の収束が距離を用いることで数列の収束に帰着できたように、連続性も度合い関数を用いて簡潔に記述することができる。
定義 1 (空間上の関数の極限)
を点集合上の実数値関数、をの極限点、を実数とする。 関数がで実数に収束するあるいはがのでの極限であるとは 度合い関数が存在し任意のに対して
が成り立つことをいう。
今後の議論の展開の中で値域が実数でなく ()である場合に拡張する必要がありそのために極限の概念を拡張しておく。
定義 2 (空間上の値関数の極限)
を点集合上の値関数、をの極限点、をの点とする。 関数がで点に収束するあるいはがのでの極限であるとは 度合い関数が存在し任意のに対して
が成り立つことをいう。
値関数の極限を調べるには各成分の極限を調べれば十分である。
命題 3
を点集合上の実数値関数としてにより値関数を定める。 をの極限点、をの点とする。 このとき、関数がで点に収束することは、 各に対して関数がで実数に収束することと同値である。証明
が収束するならばの方が簡単で、各に対して
であることから直ちに従う。
各が収束する場合は
となる度合い関数が存在し、 新しい度合い関数をとして取ると、
なのでも収束する。
今後変数関数の極限や連続性も値に拡張すべきだが、実数値の場合だけ記して値の場合の定義等は省略する。
変数関数は点から点の距離が
で与えられることから以下のようにして定義される。
定義 4 (多変数関数の極限)
をの部分集合上で定義された変数実数値関数、をの極限点、を実数とする。 変数関数がで実数に収束するあるいはがのでの極限であるとは 度合い関数が存在し任意のに対して
が成り立つことをいう。
極限が定義できると一変数関数と同様に連続性が定義できる。 以下では多変数関数の場合を述べるが、空間上の関数でも同様である。
定義 5 (多変数関数の連続性)
をの部分集合上で定義された変数実数値関数、をの極限点でありはを元として含むとする。 ここでがでに収束する、つまり
の時、関数は点であるいは関数は点で連続であるという。
定義 6 (多変数連続関数)
をの部分集合上で定義された変数実数値関数として、の点はすべての極限点であるとする。 ここで、すべての点でが連続である時、関数は集合上の連続関数であるという。注意 7
以上のことをまとめると変数実数値関数がで連続であることは度合い関数が存在し
が成り立つことと同値である。
多変数あるいは空間上の連続関数の典型例として射影と距離が挙げられる。
命題 8 (射影の連続性)
として、以下の射影は連続関数である。
証明
不等式
が成り立つことからすぐわかる。
命題 9 (距離の連続性)
点を固定し、距離から定まる関数は上の連続関数である。証明
三角不等式より
なので、は連続関数である。
注意 10
実は距離を定める関数は上の連続関数である。 実際、三角不等式より
で、これはが連続関数であることを意味している。
一変数関数同様に以下の連続性に関する性質がある。
命題 11 (点列連続性)
関数が点で連続であることは
に収束する任意の点列に対して、数列がに収束する
ことと同値である。
証明
がで連続として、に収束する点列を考える。 に対して、連続性からあるが存在してを満たす任意の点に対してである。 さらにこのに対して、数列の収束から自然数が存在してを満たす任意の自然数に対してである。 よって、としてを考えることで、十分大きいすべてのに対して、つまりを得る。
逆にに収束する任意の点列に対してのとき、の連続性を示すが、背理法で連続でなかったとする。 この時、あるが存在して、任意のに対してかつとなる点が存在する。 ここでごとにを考えて上記の条件を満たすが存在することからそのうち一つをとおく。 そうして点列を定めるとき、なのではに収束する。 一方でよりはに収束しないので仮定に矛盾する、よってはで連続である。
命題 12 (連続関数の合成関数)
を次元点集合上の値関数、を次元点集合上の実数値関数であってを満たすとする。
ここで関数が点で連続で、関数が点で連続である時、 合成関数は点で連続である。
各種演算は二変数連続関数の典型例である。
命題 13 (演算の連続性)
以下の演算によって定義される関数は連続関数である。
- .
- .
- .
- .
- .
- .
証明
定義域から点を固定する。
三角不等式より
よって加法は上の連続関数である。
三角不等式より
よって減法は上の連続関数である。
三角不等式よりとおくと
ここで、各ごとにより、 乗法はで連続であり上の連続関数である。
最初にに十分近いのみ考えることで、特にでとしてよいことに注意する。 三角不等式よりとおくと
ここで、各ごとにより、除法はで連続であり上の連続関数である。
一般に
が成り立ち、連続関数の合成になっているので、最大は上の連続関数である。
一般に
が成り立ち、連続関数の合成になっているので、最小は上の連続関数である。
連続性を調べるときにしばしば直面するのがで1点がくりぬかれた領域では連続だが、その点は極限を考えなければならない場合である。 そのような時は極座標 ()を用いるとよい。
命題 14 (極限と極座標)
として、を上で定義された二変数実数値関数とする。 このとき、二変数関数がで実数に収束することの必要十分条件は
が成り立つことである。
特に、を上で定義された二変数実数値関数とするとき、 二変数関数がで連続であることの必要十分条件は
が成り立つことである。
例 15
二変数関数
を考える。 このとき
したがって、はで連続であるので、上の連続関数である。
例 16
二変数関数
を考える。 この関数は原点を除いた領域では連続であるが、原点の周りの点においては
でとしたときの極限がに依る(例えばだとこの値はだがだとで一定でない)。 つまり極限が存在しないので、はで連続でない。
開集合と閉集合と有界閉集合
点集合を考える。 つまり、は次元空間の部分集合である。
が開集合であるとは境界がないつまり開いているということで、境界上の点はどんなに近くを見てもの点とでない点が存在するものなので、次のように表現される。
定義 1 (開集合)
を次元点集合とする。 ここで、任意の点に対して半径が存在してが成り立つとき、は開集合であるという。閉集合は何かについて閉じているということであるが、極限について閉じている場合をいい、以下のとおりである。
定義 2 (閉集合)
を次元点集合とする。 ここで、任意の収束する上の点列 ()に対して極限がの元であるとき、は閉集合であるという。注意 3
定義より空集合と空間全体はともに開集合であり閉集合でもある。開集合と閉集合は次の命題の意味で表裏の関係にある。
命題 4 (開集合と閉集合の関係)
を次元点集合とする。
- が開集合であるとき、補集合は閉集合である。
- が閉集合であるとき、補集合は開集合である。
証明
- を開集合とするとき、補集合上の収束する点列と極限を考える。 ここでもしだとするととなる半径が存在する。 ここで点列の収束性から十分大きい自然数に対してであり、に矛盾する。 したがってなので、は閉集合である。
- を閉集合として、補集合上の点を考える。 ここでもしが開集合でないとすると、任意のに対してかつとなる点が存在する。 ここでごとにを考えて上記の条件を満たすが存在することからそのうち一つをとおく。 そうして点列を定めるとき、は上の点列でありに収束するがこれはが閉集合であることに矛盾する。 したがっては開集合である。
開集合・閉集合の判定は連続関数をもとに考えるとよい。
命題 5 (開集合・閉集合と連続関数)
を次元空間上の連続関数とする。 このとき、次の次元点集合はいずれも開集合である。
- .
- .
- .
また、次の次元点集合はいずれも閉集合である。
- .
- .
- .
証明
が閉集合であることを示す。 上の収束する点列とその極限を考える。 このとき、であり、が連続関数なのでであることから、が従う。 よって、であるから、は閉集合である。
がやになっている場合も同様に示される。 開集合の方は任意の集合に対してから従う。
注意 6
一般に定義域も値域も開集合・閉集合が定義されるような集合(位相空間という)であるならば、 開集合の連続関数による逆像は開集合で、閉集合の連続関数による逆像は閉集合となっている。開集合・閉集合は共通部分と和集合について閉じている。
命題 7 (開集合・閉集合の演算)
, を次元点集合とする。
- , が開集合であるとき、共通部分も開集合である。
- , が開集合であるとき、和集合も開集合である。
- , が閉集合であるとき、共通部分も閉集合である。
- , が閉集合であるとき、和集合も閉集合である。
証明
- , が開集合として、共通部分を考える。 任意の点を固定すると、 では開集合なので、となる半径が存在し、 では開集合なので、となる半径が存在する。 よってとおくと、となるので、は開集合である。
, が開集合として、和集合を考える。 任意の点を固定する。
- のとき、は開集合なので、となる半径が存在する。
- のとき、は開集合なので、となる半径が存在する。
よっていずれの場合でもは開集合であることが示された。
- 残る閉集合に関する命題はド・モルガンの法則, が成り立つことから従う。
有界な閉集合である有界閉集合が一次元での有界閉区間に相当し今後いろいろなところで出てくる。
命題 8
有界閉矩形は有界閉集合である。証明
有界閉矩形上の点列がに収束したとすると、 各に対してなので、つまり極限はの元である。 したがって、は閉集合である。 有界閉矩形は明らかに有界なので、有界閉集合である。定理 9 (ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理)
有界な点列つまりある有界閉矩形上の点列は収束する部分列を持つ。証明
を有界閉矩形上の点列とする。 このとき、であるから、一次元のボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理から部分列であってある実数に収束するものが存在する。 さらにであるから、再度一次元のボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理から部分列であってある実数に収束するものが存在する。 これを繰り返していけば点列のある部分列であってある点に収束するものが取れる。系 9.1
を有界閉集合とする。 このとき任意の上の点列に対して、収束する部分列が存在してその極限はの元である。証明
は有界閉矩形で被覆できるので、ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理より、点列は少なくとも部分列を取れば収束する。 さらには閉集合なので、極限はの元である。次元空間上の有界閉集合はしばしばコンパクト集合とも呼ばれる。
命題 10
を有界閉集合として、を上の関数、を定数とする。 ここで任意の収束する点列に対してがに収束するとき、 任意の(収束するとは限らない)点列に対してはに収束する。有界閉集合上の点列なので部分列を取れば収束するが、この定理の重要な点は部分列を取らなくてもは収束することにある。
証明
の任意の部分列に対して収束部分列が取れて、 仮定よりはに収束するのではに収束する。最大値最小値定理
一変数関数では有界閉区間に対して成立する最大値最小値定理は多変数関数では有界閉集合に対して自然に拡張される。
定理 1 (最大値最小値定理)
関数を空でない有界閉集合上の実数値連続関数とする。 この時、関数は上で最大と最小を持つ。証明は区間縮小法によってもできるが、ここではボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理を用いた簡潔なものを紹介する。
証明
最大について示す。 の上の上限をとおくと、が空集合でないのでであり、となる上の点列が存在する。 ここでは有界閉集合よりは収束する部分列をもち極限をとおくと、は連続関数なのでである。 よってであり、上限を達成することができたので、は上で最大となる。
最小についても同様なので証明は省略する。
この定理からすぐわかる例としてを空でない有界閉集合、を点とすると、連続関数は上で最大値と最小値を持つことが挙げられる。 実際には最小値については有界性が必要ない。
命題 2
を空でない閉集合、を点とすると、距離関数は上で最小値を持つ。証明
は空集合でないので、半径を十分大きく取るとと閉円板は共通部分を持つ。 そのため連続関数は上で最大値と最小値を取る。 最小値をとおくと、よりである。 の外ではの値はより大きいので、は上の最小値にもなっている。この最小値を集合から点への距離といい、と表す。
命題 3
空でない閉集合から点の距離関数は連続関数である。証明
に対してとなる点が存在するので、
が成り立つ。 とを入れ替えて同様のことをすればがわかり、はについて連続である。
ここから直ちに次がわかる。
定理 4 (最小距離)
を空でない有界閉集合、を空でない閉集合とすると、距離関数は上で最小値を持つ。多変数の中間値の定理
最大値最小値定理と比較して中間値の定理は幾分人工的な拡張である。
まず、次元の議論を一次元に帰着させるために弧状連結性を導入する。
定義 1 (弧状連結)
を次元点集合とする。 ここで、の任意の二点, に対してとを結ぶ上の連続な曲線が存在するとき、は弧状連結であるという。定理 2 (中間値の定理)
関数を弧状連結な集合上の実数値連続関数とする。 このとき、任意のに対して、は上でとの間の値を全て取る。 言い換えると、簡単のためとすると、である。注意 3
この定理は抽象化すると弧状連結集合の連続関数による像は弧状連結であると表現できる。証明
弧状連結性からとを結ぶ上の連続な曲線が存在する。 ここでとの合成関数は連続関数であり, なので、一変数での中間値の定理からとの間の値を全て取る。 よって、はとの間の値を全て取る。この定理は実質的に一変数の中間値の定理と同等である。 より多次元らしさがある拡張が次のブラウアーの不動点定理として知られる定理である。
定理 4 (ブラウアーの不動点定理)
有界閉矩形からそこへの連続な変換は不動点、つまりとなる点を持つ。しかしながらブラウアーの不動点定理の証明は大変難しく本テキストの範囲を逸脱するので詳細は省略する。
中間値の定理(の高次元版)は弧状連結の定義から直ちに従ったが、偏微分に関するいくつかの定理を考える際には曲線を軸に沿った折れ線で取り直す必要がある。 次の補題はそのことを保証する。
補題 5
をの開集合として、の二点を結ぶ上の連続な曲線が存在するとする。 この時、あるが存在して曲線上のすべての点に対して、が成り立つ。 特にそのような二点は軸に並行ないくつかの線分で結ばれる。証明
曲線を、の補集合をとおいて、関数が正の最小値を持つことを示せばよい。 まずの時はは何でもよいので、除外する。 仮定より、は空でない有界閉集合では閉集合でなので、定理 4 より最小距離が存在する。 あとはとすればよい。一様連続性
一変数の時と同様に多変数でも一様連続性が定義され、いくつかの場面で登場する。
定義 1 (一様連続関数)
次元点集合上の実数値関数に対して、度合い関数が存在して任意のに対して
が成り立つとき、は上の一様連続関数であるという。
重要なこととして有界閉集合上の連続関数は自動的に一様連続関数である。
定理 2 (有界閉集合上の連続関数、ハイネ・カントールの定理)
有界閉集合上の実数値連続関数は上一様連続である。証明
が一様連続でないと仮定すると、あるが存在して任意のに対して, が存在してである。 ここでに対してとして取れば、が存在して, が成り立つ。 は有界閉集合なのでボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理より部分列を取れば数列, は収束し極限をそれぞれ, とおくと、 よりである。 さらにもわかる。 ここで、はで連続より
となり矛盾が導かれた。 よって関数は上一様連続である。
リプシッツ連続性
一変数の時同様多変数でもリプシッツ連続性が定義され、いくつかの場面で登場する。
定義 1 (リプシッツ連続関数)
次元点集合上の実数値関数に対して、非負の定数が存在して任意のに対して
が成り立つとき、は上のリプシッツ連続関数であるという。 そのようなの下限をリプシッツ連続関数のリプシッツ定数という。
リプシッツ連続関数は定義域が何であれ全体集合に拡張できる。
定理 2 (リプシッツ連続関数の拡張)
を次元点集合上のリプシッツ連続関数でをそのリプシッツ定数とする。 この時、次元空間上の関数をに対して
で定めるとき、 関数はすべてのに対してを満たす上のリプシッツ連続関数でそのリプシッツ係数はである。
証明
まず、任意のとに対してとなる点が存在するので、でも同じを取れば三角不等式より、
ここからは上のリプシッツ連続関数でリプシッツ定数は以下であることがわかる。 次にに対してとしてを取れば
が成り立ち、 のリプシッツ連続性を使えば任意のに対して
なのでも成り立つ。 したがってでであり、のリプシッツ係数はである。