積分
積分の導入
有界閉区間上の関数が与えられたときに、特にが常に正のとき、軸とそれとおよびで囲まれた部分の「面積」を計算するにはどうすればよいだろうか。 この疑問から出発する数学の理論が積分である。 もしが定数関数ならば囲まれた部分は長方形になるので「たてかけるよこ」で面積が計算できる。 が一次関数の場合は囲まれた部分は台形になるので台形の面積の公式が使えるだろう。 しかしながらより一般の関数の場合はたとえ二次関数であっても一筋縄ではいかないことがわかる。 これは面積(積分)を考える際にどうしても無限や極限の概念が必要になるためである。 以下で展開するのはこの問題に解決の方法を与えた理論で発案者の名を取ってリーマン積分と呼ばれる。 ちなみに積分の理論はリーマン積分の他に積分の定義の仕方によってルベーグ積分などいろいろあるが、ここでは歴史上最初の積分の厳密な定式化であるリーマン積分について紹介する。
面積を計算する時の基礎は先ほど述べた長方形の面積の公式「たてかけるよこ」であり、 これはが定数関数のである場合軸とおよびとで囲まれた部分(長方形)の「面積」がで計算できることに対応する。 ここで、が負の場合もは負の値として定義できることに注意する。
ここから一気に一般の関数を考える。 リーマン積分の基礎的な考え方は区間を細かい区間に分割することである。
そのためにまず、区間の分割を定式化する。 区間の分割とは
を満たす点の並びのことである()。 つまり、区間を小区間に分割している。 また、分割の大きさを小区間の大きさの中で最も大きいもの、つまり
とする。
ここで小区間 ()において軸とおよびとで囲まれた部分を考えると一般には長方形とは限らないが、分割の大きさが小さいと長方形とみなしても全体の面積を計算するのには差し支えないと考える。 そこで点をとりあえずは好きにとって、長方形の「たて」に相当する量としてを採用し、(たてに細長の)長方形の面積をとする。 この時のを小区間の代表点という。 これらの面積を足し合わせて得られる全体の面積
をの区間の分割と代表点のリーマン和という。
リーマン積分はリーマン和の分割の大きさをに近づけるときの極限として定義する。 より詳しくは分割や代表点の取り方によらずとなるように分割の個数をとするときにリーマン和がある実数に収束するならば関数は区間上でリーマン積分可能といいそのを関数の区間上の定積分といい
と表す。 また、この時の関数を被積分関数という。 ただし、この表現だと「分割や代表点の取り方によらず」というあいまいな部分があり、上限・下限を用いたより正確で洗練された定義を後で導入する。
ひとまずはこれを定積分の定義として簡単な関数の積分を求めてみよう。 最初に考えるのは基礎的な関数である定数関数である。 この時、分割と代表点に対してリーマン和は
となり、分割や代表点の取り方によらない値になっているので、定積分は
となり、長方形の面積の公式と等価である。
次にが一次関数のとき、いきなり一般の分割と代表点を考えるのは難しいので、 特殊な分割として区間の等分つまり ()を代表点として小区間の右端点 ()をそれぞれ考えることにしよう。 この時、リーマン和は
となり、つまり分割を細かくすることを考えると、このリーマン和は
に収束し、これは台形の面積の公式と等価である。 ただし、これはあくまで特殊な分割と代表点に対してしか示していないので、まだこれが定積分とは言えない。 しかしながらリーマン積分可能である十分条件を後でいくつか紹介し、それによれば一次関数は常にリーマン積分可能で上記の値が定積分である。 また、上記の計算方法は一般のリーマン積分可能な関数に適用でき、特殊な分割や代表点の取り方にもとづいて定積分を計算することを区分求積法という。 例えば、
とする計算法である。
二次関数や次関数に対しても区分求積法により定積分が計算できるが、リーマン和を計算する段階で式が複雑になりがちである。 そこで定積分の計算を微分とのかねあいで容易に計算する手法が知られていて、これによれば積分の計算は被積分関数の原始関数や不定積分と呼ばれる関数を見つけることに帰着される。 この時に原理的な役割を果たすのが微分積分学の基本定理と呼ばれる定理になる。 この計算方法は非常に強力で様々な関数の定積分が計算できるようになる。 そのため区分求積法を反対に使って今までの知識では扱えなかった極限の問題を積分の問題に帰着させることもできたりする。
また、これまで定積分は定義の都合上有界閉区間上の有界関数、例えば連続関数を主に考えていたが、 応用上重要なガンマ関数やベータ関数を定義するには開区間や有界でない区間で定積分を考える必要がある。 つまり端点までは連続でなく発散している場合や無限遠方を考えたい場合などがある。 このような要求に対する積分の理論が広義積分であり、定積分が定義される関数の範囲の拡張を試みる。
この章では以上の流れで説明を進めていく。
上積分下積分と定積分
を有界閉区間 ()上の有界な関数とする。 区間の分割をとする。 この時、リーマン和の代わりに次の上リーマン和と下リーマン和を考える。
を有界な関数としているので、, は無限大にならず実数値になることに注意する。
命題 1
任意の分割に対して
が成り立つ。
証明
これは
から自然に示される。
ここから分割を細かくすることを考える。 分割をとして、
となっている時、分割は分割の細分という。
命題 2
任意の分割とその細分に対して、
が成り立つ。
証明
まずの時、
から、が区間を複数に分けないような分割の時に成り立っていることに注意する。 一般の場合では細分は小区間ごとに分割したものをまとめていることからそれらを足し合わせると主張が成り立つことがわかる。
命題 3
任意の分割とに対して、
が成り立つ。
証明
これは分割との点をまとめて並び替えなおして得られる分割をとすると、はとの細分になることから、 今までに示した二つの命題より
が得られる。
ここからを固定したままについての上限を取ったのちについての下限を取ることを考える。 積分の候補として次の上積分と下積分
を導入すると、 以上の議論から
を得る。
定義 4 (定積分)
を有界閉区間 ()上の有界な関数とする。 がで積分可能あるいは可積分であるとは上記の式において等号が成り立つ場合をいう。 その時の等しい値を関数の区間上の定積分といい、
で表す。 またの時は
と定義し、 に対しては
と定義する。
注意 5
最初に示した命題より
なので、 とするのは自然である。
例 6
導入でも触れた通り定数関数は任意の有界閉区間で積分可能で
が成り立つ。
例 7
有界な関数をに対してが有理数のときでが無理数のときと定義する。 この時、任意の小区間 ()に対して間に有理数と無理数が存在するので、とが成り立ち、この関数は積分可能でない。以下では積分可能であることの十分条件として主に単調関数と連続関数を紹介する。 まず、準備として次を示す。
命題 8
を有界閉区間上の有界な関数とする。 この時、が上で積分可能であることの必要十分条件は、 分割の列であってかつ
を満たすものが存在することである。
証明
まず、上積分下積分が下限上限で定義されていることから分割の列とであってとを満たすものが存在することに注意する。 ここで各に対してとをまとめて並び替えなおして必要があれば分割をさらに細かくすることでとなる分割の列を作る。 この時はとの細分になっているので、
が成り立つ。 よって、が積分可能であるときほしかった分割の列が得られた。
逆にが存在するとき、
となっていることから、は積分可能である。
定理 9 (単調関数の可積分性)
を有界閉区間上の広義単調増加または広義単調減少な関数とする。 この時、は上で積分可能である。証明
議論はほぼ同じなので、広義単調増加の場合のみ示す。 関数の単調性からの小区間での上限と下限は端点で達成するので、上リーマン和と下リーマン和は
となりその差は
となる。 これを評価すると
であり、分割を細かくすると右辺はいくらでも小さくできるので、最終的にが可積分であることがわかる。
定理 10 (連続関数の可積分性)
を有界閉区間上の連続関数とする。 この時、は上で積分可能である。証明のためには有界閉区間上の連続関数は一様連続に更新できることを思い出す。 また、ここでは度合い関数を使って一様連続性を書き下している。
証明
は上の一様連続関数、つまり度合い関数が存在し任意のに対してが成り立つ。 ここから小区間に対して、上の連続関数の最大点と最小点を取ると、
である。 これを踏まえると上リーマン和と下リーマン和の差は
となる。 よって、分割を細かくすると右辺はに収束するので、最終的にが可積分であることがわかる。
以降では定積分の性質をいくつか述べる。
命題 11 (和と定数倍の積分)
関数, が区間上で積分可能として、を実数の定数とする。 この時、和と定数倍も積分可能で、
が成り立つ。
このことを積分の線形性という。
証明
和の上限はそれぞれの上限を取ったものの和で上から抑えられることから、
同様にして
したがって
であり、が言える。 ここで、とが積分可能であることからも積分可能でほしい式が成り立つことがわかる。 もう一つの定数倍の式は簡単に示されるので詳細は省略する。
この命題では和と定数倍またそれを組み合わせて差の積分の公式が得られるが、関数の積や商については一般に定積分の公式はない。 代わりに後に述べる部分積分を用いて積分を計算することになる。
命題 12 (積分の大小関係)
区間 ()上で積分可能な関数, が各に対してを満たすとき、
が成り立つ。 特に区間上で積分可能な関数に対して、
が成り立つ。
積分とは和のようなものだと思えば、和を取って絶対値を取るよりも絶対値の和を考えた方が大きいということで、自然に受け入れられるはずである。
証明
下限や上限は大小関係を保つことから、が成り立ち、ここからなので、求めたい不等式が得られる。 また、なので、もう一つの不等式もいえる。命題 13 (積分の区間分割)
として、関数は区間と区間上で積分可能とする。 このとき、は上で積分可能で
が成り立つ。
証明
区間の分割と区間の分割を任意にとって、それらを合わせて得られる区間の分割をとおく。 この時、
が成り立つ。 ここで, は任意の分割では特殊な分割なので、
となるからほしかった等式が得られる。
注意 14
この命題の等式はがとの間の点でなくても一般に成り立つ。 例えばの時でもが上で積分可能であれば
なので、整理してほしい等式が得られる。
命題 15 (積分の区間についての連続性)
実数列とに対して、有界な関数が区間と各に対して区間上で積分可能であるとする。 この時、
が成り立つ。
証明
積分区間について先ほどの命題とその注意より
と分割される。 ここでは有界なので、
となり、極限を取ると最右辺はに収束するので、ほしかった式が得られる。
命題 16 (積分の端点修正)
区間上の関数に対して、区間上で積分可能な関数であって各でが成り立つものが存在したとするとき、 も積分可能で
が成り立つ。
証明
に対してととおけば、 であり、, である。 ここでとは区間上で等しいので、
が成り立つ。 ここで前の命題を使うと、ほしかった式が得られる。
注意 17
以上の定理、命題をまとめると、 関数の区間を有限個に分割してどの小区間でも積分可能であれば全体で積分可能である。 つまり、小区間で(端点で修正して)連続または単調になっていればよい。微分積分学の基本定理
微分と積分の間の関係性を示すのが微分積分学の基本定理である。 その表現のために必要になる概念が原始関数と不定積分である。 高校数学ではこの二つは同じようなものであったが、微分の理論で生じるのが原始関数で積分の理論で生じるのが不定積分であるという違いがある。
つまり、微分して目的の関数になるものが原始関数である。
定義 1 (原始関数)
を開区間上の関数とする。 上の微分可能な関数であって各に対して
が成り立つとき、をの原始関数という。
これに対して、定積分の端点を変数にして得られる関数が不定積分である。
定義 2 (不定積分)
を区間上の任意の有界閉区間で積分可能な関数として、とする。 ここでに対して
とすることで定義される上の関数をの不定積分という。
微分積分学の基本定理は連続関数の不定積分はその関数の原始関数であることを主張する。
定理 3 (微分積分学の基本定理)
を開区間上の連続関数とする。
証明
に対してを書き下すと命題 13 を使って、
となり、のでの連続性の度合い関数を取ることで、
右辺はでに収束するので、結論としてがわかる。
の不定積分をとおく、つまり
とすると(1)よりはの原始関数である。 したがっては、微分導関数がより定数関数なので、
である。
この微分積分学の基本定理を用いれば定積分を計算することは原始関数を一つ見つけることに帰着される。 また、のことを
などと略記する。
例 4
一次関数に対して、二次関数はの原始関数であることがすぐわかるので、
と(区分求積法より)簡単に計算できる。
ここでは連続関数が与えられたときにのすべての原始関数、つまりの原始関数全体の集合について考えよう。 この集合を
と書くことにする。 , をの原始関数とすると、は、微分導関数がより、定数関数になる。 つまり、の原始関数を一つ見つけたら原始関数全体の集合は
とでき、この時のを積分定数という。 上の記述はしばしば
と略記される。 積分定数もしばしば省略されるが、微分方程式の理論では積分定数は省略されないので、このテキストでは省略せずに書くことにする。
以下では微分の公式から直ちに得られる積分の公式を列挙する。 一部に被積分関数が連続である範囲が実数全体でない場合もあるので注意する。
命題 5 (種々の関数の積分1)
注意 6
上記では細かく書いたが、いくつかは簡単に
と覚えておけばよい。
また、被積分関数が単純な関数についての積分として次が挙げられる。
命題 7 (種々の関数の積分2)
証明
証明は右辺を微分することで確かめられるので省略する。部分積分と置換積分
まず、次が成り立つことに注意する。
命題 1
連続関数, に対して、
が成り立つ。
積の微分や合成関数の微分に対応する積分の計算法が部分積分と置換積分である。
定理 2 (部分積分)
, を級関数とするとき、
が成り立つ。
証明
とおくと積の微分より
つまりはの原始関数より
よって整理して示すべき式を得る。
例 3
部分積分により
例 4
部分積分により
定理 5 (置換積分)
を連続関数、を級関数とするとき、とおくと、
が成り立つ。
注意 6
置換積分はと考えると覚えやすい。証明
を連続関数の原始関数(の一つ)とおくと合成関数の微分より
つまりはの原始関数より、と置換することで
である。
例 7
置換積分によりとおくと
部分積分と置換積分を定積分に適用するとき、部分積分ではそのままだが置換積分では積分区間が変更になることに注意が必要である。
定理 8 (定積分の部分積分)
, を有界閉区間を含む開区間で級関数とするとき、
が成り立つ。
定理 9 (定積分の置換積分)
をの有界閉区間、をの区間とし、を上の連続関数、をを含む開区間で級関数であって値域がに入っているとする。 ここで, とするとき、
が成り立つ。
部分積分と置換積分の応用として逆関数の積分がある。
定理 10 (逆関数の積分)
を連続関数として、をの原始関数の一つとする。 が逆関数を持つとすると、
が成り立つ。
証明
と置換すると、より
部分積分より
よって、に注意してで書き直せばほしかった式が得られる。
例 11
を考えると原始関数は、逆関数はより
である。
また、次のような積分の公式もある。
定理 12 (キング則)
を有界閉区間上の連続関数とするとき、
が成り立つ。
証明
右辺においてと置換すると、
したがって、をに書き直せばほしかった式が得られる。
注意 13
このキング則は面積としての積分の対称性を表すもので、 のように中点で左右反転させても同じ面積を与えることを意味する。例 14
を有界閉区間上の連続関数とするとき、
が成り立つ。 実際、キング則より
である。
種々の積分の計算
この章では積分を計算する系統だった技法をいくつか紹介することで様々な関数の積分が計算できるようにする。
実数係数の有理式つまり実数係数の多項式と実数係数の多項式の分数の形になっている関数は積分が計算できる。 これは部分分数分解によりどの有理式も次の形の有理式の和として表されることによる。
- 単項式 (, )。
- 一次式の累乗 (, )。
- 判別式が負な二次式の累乗で次の形 (, )。
- 判別式が負な二次式の累乗 (, , )。
これらのうち一つ目と二つ目は, の積分をそれぞれ使えばよく、 三つ目はと置換することでの積分に帰着される。 四つ目は置換により、
の計算に帰着され、部分積分
からこのが満たす漸化式
により計算できる(一般項は難しいが与えれたに対するは計算できる)。 いくつか計算してみると
などとなる。
例 1
部分分数分解
により
と計算される()。
根号を含む関数(は実数係数の有理式、, , )も積分が計算できる。 これはと置換することでについての有理式の積分に帰着されることによる。
例 2
別の形の根号を含む関数も積分が計算できる。
例 3
さらに, を含む関数(は実数係数の有理式)はという置換によりについての有理式の積分に帰着される。
例 4
特に(は実数係数の有理式)の形の関数の場合はという置換によりさらに簡単に積分が求められる。
例 5
積分の漸化式
この節では被積分関数に自然数の定数があるような積分を考える。 もちろん
のような簡単な例もあるが、一般項が簡単には求まらないことが普通である。 例えば前節で紹介した
がそれにあたる。 そこで部分積分や置換積分を使って漸化式を立てて目的の積分を計算するという技法が取られる。
例 1 (ウォリス積分)
に対して積分
を考える。 この積分は部分積分を使うことによりに対して、
となるので、積分の漸化式
を得る。 最初のの場合だけ積分を計算したらこの漸化式から
などと順に計算することができる。
また、定積分
を考えよう。 なお、の定積分との定積分が等しいことはキング則式 (0.3) からわかる。 この積分をウォリス積分という。 不定積分が得られているので定積分に対する漸化式は
となる。
証明
ウォリス積分の漸化式より
なので、数列は定数列であり、
がわかる。
ここで、でより
であり、をかけて
を得る。 したがってはさみうちの原理より結論の式を得る。
積分の不等式
この節では積分を含んだいくつかの有名な不等式を紹介し、応用として(本来の応用先ではない場合もあるが)様々な積分や式に対して評価を与える。
命題 1 (連続関数に対する積分の大小関係)
, を有界閉区間 ()上の連続関数とする。 各に対してを満たすとき、
が成り立つ。 等号成立条件は任意のに対してが成り立つことである。
証明
不等式自体は命題 12 ですでに示したとおりである。 等号成立条件については、もしつまりとなるが存在したとする。 このときとは連続関数なのでの近傍でとなる。 この近傍を ()とすれば、
となるので、積分の値は厳密に大きくなる。
例 2
区間上の連続関数を考えると、は非負値ででは正なので、
が成り立つ。 積分を計算すると、
であるから、 円周率がより小さいことがわかる。
さらに評価を精密化するとで
が成り立つので、
より、
という評価が得られる。
命題 3 (単調関数の積分)
を有界閉区間上の広義単調増加または広義単調減少な関数とする。
が広義単調増加であるとき、
が成り立つ。
が広義単調減少であるとき、
が成り立つ。
証明
が広義単調増加の場合を示す。 各に対してなので、積分して
を得る。 同様にしてが広義単調減少の場合も示される(詳細省略)。
命題 4 (凸関数・凹関数の積分)
を有界閉区間上の連続関数とする。
が凸関数であるとき、
が成り立つ。
が凹関数であるとき、
が成り立つ。
証明
が凸関数の場合を示す。 このときのグラフより、二点とを結ぶ線分の方が上に位置して、での接線の方が下に位置する、 つまり接線の傾きをとすればに対して
が成り立つ。 これを積分すれば示すべき不等式が得られる。 が凹関数の場合も同様に示される(詳細省略)。
例 5
<t_ratio_mean_ineq> において微分を使って示した不等式<e_ratio_mean_ineq> や<e_ratio_mean_ineq2> は積分を用いて示すことができる。 実際、に対して関数は凸なので、
を得る。
定理 6 (コーシー・シュワルツの不等式)
, を有界閉区間上の連続関数とする。 このとき不等式
が成り立つ。
証明
任意の実数に対して
に注意する。 これはについての二次不等式なので判別式が非正であり、ほしかった不等式を得る。
例 7
, , としてコーシー・シュワルツの不等式を用いれば、
を得る。
定理 8 (ヘルダーの不等式)
, を有界閉区間上の連続関数として、, を<e_holder_conj> を満たす実数とする。 このとき不等式
が成り立つ。
証明
とおく。 のときは、のときはとなり不等式は成立するので、かつの場合を考える。 各に対してヤングの不等式(<t_young_ineq>)より
なので、積分して
よってほしかった不等式が得られる。
注意 9
, の場合のヘルダーの不等式はコーシー・シュワルツの不等式に他ならない。注意 10
に対応する場合はとなり、そのままでは考えられないが、
が対応する不等式と考えることができる。
定理 11 (ミンコフスキーの不等式)
, を有界閉区間上の連続関数として、を以上の実数とする。 このとき不等式
が成り立つ。
証明
途中で三角不等式を一回使うことで
を得る。 のときはすでに結論を得ていることに注意して、以降ではの場合を考える。 ここで、
とおき、 を<e_holder_conj> を満たす実数つまりとして取ると、ヘルダーの不等式から
よってほしかった不等式が得られる。
定理 12 (イェンセンの不等式)
, を有界閉区間上の連続関数で任意のに対してとを満たし、を上の連続関数とする。
が凸関数のとき、
が成り立つ。
が凹関数のとき、
が成り立つ。
証明
凸関数の方について示す。 <t_convex_supp> よりを満たす実数が存在する。 ここで、 ()として倍して積分すると、に注意して、
よってほしかった不等式を得る。
凹関数の方は同様なので詳細は省略する。
高階微分と積分
関数の値を高階の微分係数で評価する方法としてテイラーの定理を学んだが、 実は剰余項の表現の一つとして高階微分の積分がある。
定理 1 (テイラーの定理(ベルヌーイの剰余項))
として、を開区間上の級関数とする。 このとき、任意の点に対して
が成り立つ。
この時の剰余項の表現をベルヌーイの剰余項という。 この定理はペアノの剰余項やラグランジュの剰余項よりも仮定は強いが、剰余項にやのような計算が難しいものが入らないので、剰余項の評価がしやすい。 それでいて証明は積分の部分に部分積分を繰り返すだけで簡単である。
ここでは被積分関数を導出するためにいったん抽象化した次の補題を示す。
補題 2 (ダルブーの公式)
としてを有界閉区間を含む開区間上の級関数とする。 このとき、
証明
部分積分を繰り返すことで、
が得られる。
この補題でとしてとることでテイラーの定理(ベルヌーイの剰余項)が得られる(ただしをにをに変更している)わけだが、 このは次のようにして発見される。 つまり、ダルブーの公式とテイラーの定理(ベルヌーイの剰余項)の目標の式
を比較することを考える。 するとまずの積分の項がないので、すべてのに対してが必要である。 また、の係数がの時だけでそれ以外の時はなので、
がわかる。 これらを満たすは次の多項式であり、
であることがわかる。
証明 (テイラーの定理(ベルヌーイの剰余項)の証明)
ダルブーの定理でとおくと、
なので、
となり、整理してほしかった式
を得る。
テイラーの定理は関数の値を表現する方法だったが、 積分を高階微分を使って表現することもできる。 そのためにはつまりは次の多項式とすればよい。 ここではさらに条件
を満たすものとする。 この条件は
を導く。 この形は、として整数についての和を取った時に、 後々の和を積分で近似する公式の元になる。 なお、似たようなアイデアでをベルヌーイ多項式と呼ばれる多項式にすればより高精度の公式が得られるが、ここでは扱わない。
定理 3 (台形公式)
を開区間として、, とする。
を上の級関数とすると、
が成り立つ。
を上の級関数とすると、
が成り立つ。
注意 4
二つ目の公式において、で
である。
証明
右辺の積分を部分積分する。 一つ目の主張は
より示される。 二つ目の主張は
より一つ目に帰着される。
区分求積法の応用
区分求積法とはこの章の導入のところで紹介したとおり、定積分をリーマン積分の定義に基づいて和の極限として表現する方法である。
命題 1 (区分求積法)
を有界閉区間上のリーマン積分可能な関数とする。 このとき、
が成り立つ。 特にの時、
が成り立つ。
証明
右辺は特殊な分割
に対するリーマン和の極限なので、
より、の極限を取ればリーマン積分の定義から結論が得られる。
区分求積法は積分の計算法というより、右辺の和の極限を計算する方法として有用である。
例 2
に対して、
と計算される。
和と積分の関係
数の和の問題はしばしば積分の問題に帰着される。 まずは覚えやすく簡便な方法として単調関数に対する和の評価を示す。
命題 1 (単調な和の評価)
をを満たす整数とし、を区間上の広義単調増加または広義単調減少な関数とする。
が広義単調増加であるとき、
が成り立つ。
が広義単調減少であるとき、
が成り立つ。
この話題は和と積分が表す面積の関係に基づいていて、一般的には積分区間をやにすることが多いが、どちらが小さくどちらが大きいか迷いがちである。 しかしながらこの方法であれば、和のをそのまま積分区間にして、和は項なのに積分区間の長さはであるので端点をその大小に応じて足せばよく、わかりやすい。 (そもそも今回の命題の設定ではの外でははどうなっているのかわからないのでこのような形にならざるを得ない。)
証明
が広義単調増加の場合を示す。 積分区間を分割すると
ここでの単調性より
よって
なので、整理してほしかった不等式を得る。
が広義単調減少の場合も同様に示される(詳細省略)。
例 2 (調和数の漸近近似)
調和数とは正の整数の逆数の和のことをいい、項の和
を考える。 逆数関数は上で狭義単調減少なので、上の命題より
が成り立つ。 積分を計算すると
であるから、
である。 ここから例えばで割ればでが得られて、 調和数はで漸近近似されると表現される。
注意 3 (オイラーの定数)
調和数とその漸近近似の差について、
より、は単調減少である。 上の評価からであるので有界であり、したがって収束する。 この極限をオイラーの定数といい、と表される。 数値的にはであるが、他の有名な定数やとの関係性などわかっていないことが多い。
例 4 (階乗の対数漸近近似)
の階乗を階乗を用いない形で評価することを考える。 そのために対数を取ったを評価する。 対数関数は上で狭義単調増加なので、上の命題より
が成り立つ。 積分を計算すると
であるから、
である。 ここから例えばで割ればで
となっている。 このためはで漸近近似されるというが、 階乗に直すととで、その比は、のために、以上以下しかわからず漸近近似とは言いがたい。 そのため、今回の評価でははで対数漸近近似されるという。
より精密な和と積分の関係を得るために、台形公式を用いる。
定理 5 (台形和公式)
をを満たす整数とし、を区間を含む開区間上の級関数とする。 このとき、
が成り立つ。 特に
が成り立つ。
証明
積分区間を分割して
台形公式から
ここで
に注意して、足し合わせるとほしかった式を得る。
注意 6
が凸関数(または凹関数)の場合、でありなので、台形和公式の一番最後の項は非負である。 このことはより弱い仮定のもとで次のように表現される。命題 7 (凸な和の評価)
をを満たす整数とし、を区間上の連続関数とする。
が凸関数であるとき、
が成り立つ。
が凹関数であるとき、
が成り立つ。
証明
が凸関数の場合を示す。 積分の上からの評価は積分区間を普通に分割して
積分の下からの評価は中点が整数値になるように積分区間をずらして分割して
よって整理してほしかった不等式を得る。
が凹関数の場合も同様に示される(詳細省略)。
例 8 (階乗の漸近近似)
階乗を台形和公式で評価する。 つまり、、とする。 出現する項は
である。 したがって、は凹関数であることに注意すれば、
が成り立つ。 ここからの漸近近似としてが得られて、 階乗に直すととでその比は
を満たし、有界な範囲に留まるので、 はだいたいと同じ速さで漸近近似される。
広義積分
有界閉区間とは限らない区間上の連続関数あるいは単調関数(広義単調増加関数と広義単調減少関数)に対する積分である広義積分は区間を有界閉区間で近似することで定義される。 このとき、極限の有無によって広義積分での積分可能性が分かれることに注意する。
定義 1 (広義積分)
を開区間 ()上の関数であって、内の任意の有界閉集合で積分可能とする。 ここでに対して極限
の両方が存在するとき、 は上で広義積分可能であるまたは広義積分が収束するという。 また、その時の二つの極限の和をの上の広義積分といい、通常の定積分と同様に
で表す。
注意 2
- 開区間において、広義積分可能かどうかや広義積分の値はの取り方によらない。
- が有界閉区間で積分可能な場合は広義積分可能でもあり、その広義積分の値は通常の定積分の値と一致する。 また、片方の端点で連続などである場合たとえばで連続な場合は広義積分の極限はのみ考慮すればよい。
次の命題は値が具体的に計算できる広義積分として重要であり、 指数がのところで切り替わることは記憶するに値する。
命題 3
を実数とするとき、
が成り立つ。
証明
前半はのときで、
また、のときは
後半はのときで、
また、のときは
以上より示された。
以下では広義積分の値を追求するよりも収束するかどうかについて議論する。
定義 4 (広義積分の絶対収束)
開区間 ()上の関数に対して広義積分
が収束する時、 は上で絶対広義積分可能または広義積分が絶対収束するという。
注意 5
広義積分が絶対収束する場合
と表し、 絶対収束しない場合
と表す。
命題 6
を開区間上の関数として上の有界閉区間で積分可能とする。 ここでの広義積分が絶対収束するならばそれは収束している。証明
として、を考える。 ここで
とおくと、に対して
よって、について上極限をについて下極限をそれぞれ取るととは仮定より収束することに注意して、
したがって上極限と下極限が一致するのでさらには広義積分は収束する。
命題 7 (広義積分の比較判定法)
を開区間上の関数として上の有界閉区間で積分可能とする。 さらには上で非負値とする。
二つの条件
を満たす関数が存在するならば、 の上での広義積分は絶対収束し、
が成り立つ。
二つの条件
を満たす関数が存在するならば、 の上での広義積分は絶対収束せず、
である。
注意 8
この時の非負値関数をの優関数という。証明
として、とを考える。 よりはについて単調減少ではについて単調増加であることに注意する。
の場合は
であるから、単調収束定理より最左辺の二項の極限が存在し、絶対収束とほしい不等式が得られる。
の場合は、でありまたはなので、
であり、絶対収束しないことがわかる。
例 9
広義積分
は絶対収束する。 実際
であることから従う(については<t_gauss_est> 参照)。
例 10
広義積分
は収束するが、絶対収束しない。 このことについてはシンク関数の節を参照すること。