偏微分
偏微分
多変数関数の微分の基礎は偏微分である。 つまり、他の変数は定数だと思って固定した状態である一つの変数について微分する。
定義 1 (偏微分)
をの部分集合上で定義された変数実数値関数、とする。
をの内点、つまり半径が存在してが成り立つとする。 ここで他の成分は固定して第成分だけ動かした時の微分係数
が存在するときは点でについて偏微分可能であるといい、極限を偏微分係数という。 関数の点でについての偏微分係数を
などで表す。
を開集合、つまりの点がすべて内点である場合を考える。 のすべての点で関数がについて偏微分可能であるときは上について偏微分可能であるという。 この時、に対して偏微分係数を対応させる集合上の実数値関数をのについての偏微分導関数という。 のについての偏微分導関数を
などで表す。
方向と点を決めるごとに偏微分係数は実数であり、 偏微分導関数は上の実数値関数である。 偏微分導関数はしばしば偏導関数と略される。
偏微分係数および偏微分導関数は一変数の通常の微分をもとにして定義しているので、それに対する命題の類が成り立つ。 つまり、和と定数倍の微分や積の微分、商の微分、一変数関数との合成関数の微分は第成分以外の変数は固定されていることに注意して行うことができる。 ただし、多変数関数との合成関数の微分は後で述べる別の扱いをする必要があることに注意する。
例 2
原点からの距離で定まる二変数関数
の偏微分を考える。 を固定するごとにについて微分すると、においては偏微分可能で
となる。 においてはなので、これはについて偏微分可能でない。 同様にしての偏微分はにおいては偏微分可能で
となり、においては偏微分可能でない。
例 3
<t_non_cont> の二変数関数
を考える。 この関数は少なくともにおいては偏微分可能で商の微分などから
がわかる。 においても偏微分の定義から
となり、偏微分可能である。 しかしながら、<t_non_cont> で見た通りこの関数はにおいて連続ではない。 このことは多変数関数においては偏微分可能であっても連続とは限らないことを示唆している。
全微分
定義 1 (勾配)
変数関数が点において各 ()について偏微分可能であるとするとき、 偏微分係数を順番に並べて得られる次元ベクトル
をの点での勾配という。
注意 2
勾配はベクトルとして考えるのが自然であり、内積が定義できることに注意する。本来勾配は次に述べる全微分可能な場合に意味をなす概念であるが、 その全微分可能性の定義でこのベクトルを利用するため本テキストではここで勾配を導入する。
定義 3 (全微分)
をの部分集合上で定義された変数実数値関数、をの内点とする。 ここで、が点で各方向に偏微分可能であって、勾配を使った極限の式
が成り立つとき、関数は点で全微分可能であるという。
注意 4
全微分可能の条件を度合い関数を使って表すと
がすべてので成り立つということである(のときは両辺ともにで不等号は成立することに注意する)。
注意 5
テキストによっては全微分
というものを導入することがある。 この表記は微分形式の理論で有用であるが、本テキストではそこまで必要にならない。 勾配が代わりの役割を果たす。
例 6
次元定ベクトルとの内積で定まる変数関数
を考える。 この関数は全体で全微分可能であり、勾配は
となる。
例 7
定点からの距離の二乗で定まる変数関数
を考える。 この関数は全体で全微分可能であり、勾配は
となる。
例 8
定点からの距離で定まる変数関数
を考える。 この関数はで全微分可能であり、勾配は
となる。
命題 9 (全微分可能性と連続性)
をの部分集合上で定義された変数実数値関数、をの内点とする。 ここで、が点で全微分可能ならばはで連続である。証明
三角不等式とコーシー・シュワルツの不等式より
ここでで最右辺はに収束するので、はで連続である。
合成関数の微分
一変数関数の合成関数の微分とは
であったが、この多変数関数版を考えたい。 が多変数関数の場合はも多変数関数で偏微分を考えると
となるが、 問題はが多変数関数の場合である。 このときは値関数である必要があり、 は(が一変数関数ならば)一変数関数となるのでその微分を考える価値がある。 この関数がで微分可能であるとは各 ()がで微分可能であることをいい、
と定義する。
命題 1 (合成関数の微分)
値関数が点で微分可能で変数関数が点で全微分可能とする。 この時、合成関数もで微分可能で、
が成立する。
証明
はで全微分可能なので、
である。 ここから, を代入し、
これをで割ってとすれば、
よって、
である。
注意 2
積の微分公式は多変数の合成関数の微分から導出することができる。 つまり積の関数の偏微分は, なので、
がわかる。
連続微分可能性
例 3 で見たように、偏微分可能と連続とは分離された概念であるが、連続(偏)微分可能ならば(全)微分可能なので連続性も従うという事実が知られている。
定義 1 (連続微分可能性)
の開部分集合上の実数値関数が各変数 ()に対して偏微分可能で偏微分導関数が上の連続関数である時、は上連続微分可能であるという。注意 2
各偏微分導関数が連続関数のところはが連続関数と読みかえられる。命題 3 (連続微分可能ならば全微分可能)
の開部分集合上の実数値関数が連続微分可能ならば、は上の各点で全微分可能である。証明
証明は点とその近傍の点について、からへ軸に沿って近づけるという方法で行う。 そのためにまず各に対して次の値
を評価する。 ここでに対する平均値の定理よりが存在して、
したがって、をの連続性の度合いとして、
ここでなので、
よって、
である。 あとはこれを用いることで、
よって、は全微分可能である。
定理 4
弧状連結な開集合上の関数がすべての内点で全微分可能でありを満たすならば、は定数関数である。証明
<t_pcurv> よりの任意の二点は軸に並行ないくつかの線分で結ばれて、それぞれの線分で偏微分がなので、が成り立つ。注意 5
この定理の偏微分版つまりならばはについて定数関数は一般には成り立たない。 反例としてはコの字形の領域により与えられる。高階の偏微分
変数関数のでの偏微分導関数はやはり変数関数なので引き続きでの偏微分導関数を(存在すれば)考えることができる。
定義 1 (高階偏微分)
の開部分集合上の関数が変数 ()に対して偏微分可能で偏微分導関数が変数 ()で偏微分可能である時、は上二回偏微分可能であるといい、偏微分導関数
をの二階偏微分導関数という。 同様にして、 ()に対して偏微分導関数をの階偏微分導関数という。 すべての階偏微分導関数が連続の時、は上で級であるという。 さらにが上ですべてので級である時、は級であるという。
注意 2
級であることは連続微分可能であることと同値である。この定義によると変数関数の階偏微分導関数は個あるが、実際にはいくつかは等しい。
定理 3 (シュワルツの定理)
を二変数関数としてを定義域の内点とする。 ここでの近傍において, , が存在してがで連続ならば、も存在して
が成り立つ。
証明
として、平均値の定理を二回用いると
となるが存在することがわかる。 ここでは連続より、を連続性の度合いとして
となることがわかる。 あとは先にで割って極限を取ってから次いでで割って極限を取ることで、
したがってが存在して、その値はに一致する。
この定理は変数以上の多変数関数に対しても任意の二つの変数に対して適用することで偏微分の順序交換をすることができ、 回以上微分可能な関数に対しても定理を繰り返し用いることで任意の偏微分の順序交換をすることができる。 例えば級の変数関数に対して、
などが成り立つ。
ヤコビ行列とヘッセ行列
値関数に対して勾配ベクトルを並べて得られる行列をヤコビ行列という。
定義 1 (ヤコビ行列)
次元点集合上の個の実数値関数が内点で偏微分可能な時、値関数はで偏微分可能といい、 型行列
をのでのヤコビ行列という。
特にの場合はヤコビ行列は正方行列になり、 行列式が定義されてヤコビ行列式あるいはヤコビアンという。
例 2 (線形写像)
を型行列として次元ベクトルを次元ベクトルに移す線形写像を考えると、 ヤコビ行列は
となる(ベクトルによらない)。 特にが次正方行列の場合の一次変換(線形変換)のヤコビアンは
である。
例 3 (極座標変換)
極座標変換のヤコビアンを計算すると、
となる。
一回偏微分を並べて勾配ベクトルが得られたように二回偏微分を並べてヘッセ行列と呼ばれるものが定義される。
定義 4 (ヘッセ行列)
次元点集合上の実数値関数が内点の近傍で二回偏微分可能な時、次正方行列
をのでのヘッセ行列あるいはヘシアンという。
注意 5
が級関数の時、シュワルツの定理よりヘッセ行列は実対称行列である。極値問題
点集合上の関数がどのような点で最大または最小になるかという極値問題は様々な場面で現れる重要な問題である。 一変数の時と同様にこの問題に一定の指針を与えるのが次の最大値原理である。
定理 1 (最大値原理)
次元点集合上の関数がの内点で最大または極大または最小または極小とする。 ここで、がでについて偏微分可能であるとすると、が成立する。 特にがで全微分可能ならばが成り立つ。この定理により最大点や最小点では勾配がである(勾配が消えているという)ものの中にあるか境界上にあることがわかる。 特に境界を持たない点集合である開集合での極値問題は勾配が消える点を調べたので十分である。
そのような勾配が消える点を停留点と呼ぶ。
定義 2 (停留点)
次元開集合上の関数が内点でを満たす時、をの停留点という。例 3
二次式
は
より、の停留点は連立方程式
の解である。 この連立一次方程式は
と表すことができるので、 係数行列が逆行列を持つつまり行列式が非零なので
の時、停留点は
と求まる。
一般には次実対称行列と次元実ベクトルと実数に対して、 二次式
を考えると
である。 よって、の時は停留点は
と求まる。
停留点であることは極大や極小であることの必要条件であるが、逆は一般には成り立たない。
例 4
二次式
の停留点はいずれも原点である。 しかしながら、極大極小については分かれて、の場合は最小、の場合は最大、の場合は最大でも最小でもないことになる。 については軸方向には最小で軸方向には最大となっている。
一変数関数がそうであったように多変数関数においても二階微分つまりヘッセ行列と極値であることの関係が知られている。 つまりを点の近傍で級の関数とすると、方向を表すベクトルごとに合成関数の一回微分と二回微分は
となることに注意する。
定理 5 (二階最大値原理)
を次元点集合上の関数で点の近傍で級とする。
- が点で最大または極大となるならば、任意のベクトルに対してかつが成り立つ。
- が点で最小または極小となるならば、任意のベクトルに対してかつが成り立つ。
定理 6 (二階微分判定法)
を次元点集合上の関数で点の近傍で級とする。
- 任意の零でないベクトルに対してかつを満たすならば、は点で極大となる。
- 任意の零でないベクトルに対してかつを満たすならば、は点で極小となる。
注意 7
正方行列が任意のベクトルに対してを満たすことはが正定値であると呼ばれ、の固有値がすべて正であるとも表現される。 同様にしては負定値、は半正定値(非負定値)、は半負定値(非正定値)であるといい、それぞれ固有値がすべて負、非負、非正 を意味する。陰関数定理
平面上の図形の表示方法はいろいろあるが最も表現できる対象の範囲が広いのが方程式による表示である。 この図形はを固定するごとに方程式をについて解くことで、と関数のグラフとして表示できることが期待される。 このような方程式から定まる関数のことを陰関数という。 例えば円の方程式をについて解くことでとするということが同期である。 実際にはこの例のように陰関数は一般に複数あったり(多価という)また存在しないこともあるが、一意(正確には一価)な陰関数が存在することを保証するのが陰関数定理である。 一般的な陰関数定理の要点は以下の通りである。 つまり、となるような点において偏微分が消えていない時、の近くではと陰関数表示される。 また陰関数はを満たすので、もも級であればこれを微分して、
つまり
を得る。 これはと設定しているので、
とも書くことができる。
定理 1 (陰関数定理1)
二変数実数値関数を点の近傍で定義された級関数でとする。 ここでの時、ある半径が存在して、各に対しての範囲でを満たすが一意に存在しそれをとおくとは級であり、
が成り立つ。
証明
の場合も同様なので、の場合だけ証明する。 仮定よりは連続関数なので、半径が存在して上の全てので
となる。 ここでを固定するごとにはについてで狭義単調増加であることに注意する。 よって
より、の連続性からより小さい半径が存在して任意のに対して
が成り立つ。 したがってごとに中間値の定理とのについての単調性よりとなるが一意に存在してこれをとおくとである。 以降ではのでの微分可能性を見る。 テイラーの定理よりに対して、, とおくと、
となるが存在する。 ここでの定め方からであるから、
ここで最右辺はについて有界なので、とするとであり、最右辺は収束するので最終的に
を得る。 よっては微分可能で特に連続であり、最右辺は連続なのでも連続つまりは級である。
そして陰関数の滑らかさは方程式の滑らかさまで上がることが知られている。
系 1.1
が級の時、陰関数も級である。証明
が級の時、とは級で定理よりも級なので式 (0.1) の両辺は級であり、は級である。 この議論を繰り返し用いることでが級ならばも級であることがわかる。ラグランジュの未定乗数法
閉集合上で関数の最大最小を考える問題は、内部では停留点になるので、あとは境界上での最大最小の問題となり、 しばしば境界がの形をしているときに束縛条件のもとでのの最大最小を考えることになる。 このような問題に絶大な威力を発揮するのが(ラグランジュの)未定乗数法である。 つまりの停留点を考えるのではなく、未定乗数と呼ばれる新しい変数を使って定義される関数
の停留点を考えればよい。 つまり、
を満たす点が最大最小を達成する点の候補である。 実際にはという条件もつくことに注意する。 を二変数関数とすると、で一つの変数に束縛がついてそれをに代入すると一変数関数の最大最小を考えることにはなるが、未定乗数法ではあえて変数を増やし三変数関数を考えるという不思議な方法である。
定理 1 (ラグランジュの未定乗数法)
, を二変数級関数として、点が束縛条件を満たしながら動くときにが点で最大または極大または最小または極小とする。 このときまたは
となる実数が存在する。
証明は陰関数定理を用いて一変数関数に帰着させる。
証明
つまりまたはの時を考えて、変数の対称性よりの場合を考える。 このとき陰関数定理が使えて、点の近くではを満たす点はと解けて
となるのであった。 ここで一変数関数はで最大または極大または最小または極小より
が満たされる。 したがって
であり、自明なこととして
なので、 とおけば定理の結論が得られる。 の場合も全く同様である。
例 2